2019年第10回多国籍企業学会賞「単行本の部」受賞作
学術研究奨励賞
唐沢 龍也 (2019)『広告会社の国際知識移転と再創造』文眞堂
受賞理由:
本書は、広告会社の国際的なプロジェクト組織における知識移転と再創造のメカニズムを解明しようとしたものである。具体的には、知識移転・知識創造や社会的関係資本などに関わる理論的枠組みを踏まえ、日系広告会社であるアサツーディ・ケイ(ADK)の中国事業や日本企業の国際見本市への出展プロジェクトなどの事例研究を行い、学術的・実務的なインプリケーションを提示している。
本書の第1の特徴は、これまで研究の蓄積が十分でなかった広告会社の国際的な知識移転・再創造という希少な分野を対象としたことである。第2は、専門的サービス企業である広告会社の知識特性について検討するとともに、その国際的な移転のプロセスと社会ネットワークの重要性に関して考察した点である。そして第3として、文献研究に加え、ヒアリング調査、テキストマイニング、さらには社会ネットワーク分析など、多角的な手法を用いて問題にアプローチしようとしていることも評価できよう。
他方、本書には課題もある。まず、本書で取り上げた事例の特殊性に関する十分な検討・説明がなされておらず、一般化への限界がある。また、質的データの収集と分析に関する厳密性の面でも改善の余地があると思われる。加えて、各章の構成や論述の方法に統一性を欠いている点も惜しまれよう。
上記のような問題点はあるものの、本書は新たな研究対象に理論と実証の両側面から挑んだ労作であると言える。よって、学会賞委員会は本書を「学術研究奨励賞」に値すると判断した。
学会賞委員長 古沢 昌之