学会賞授賞作

2018年 多国籍企業学会賞「論文の部」 受賞作

Tetsuya Usui et al. (2017) "A Dynamic Process of Building Global Supply Chain Competence by New Ventures: The Case of Uniqlo", Journal of International Marketing, Vol. 25(3), pp. 1-20.
※Masaaki Kotabe氏及びJanet Y. Murray氏との共著


本論文は、新興企業によるグローバルなサプライチェーン構築について研究したものである。具体的には、欧米の巨大アパレル企業と比べて規模が小さく、国際化においても後発であったユニクロを事例として取り上げ、同社の中国でのサプライチェーン構築のプロセスを「サプライヤーとの関係性」という視点を中心に動態的に検証している。とりわけ、本論文では、競争優位の構築に向けて、「サプライヤーの協力的行動」を引き出す一方で、「柔軟な関係」を維持することの重要性が説かれている点が特徴的と言える。

本論文の優れている点は、まず関連の諸理論の検討から独自の分析の枠組みを提示するとともに、実証研究を通して先行研究とのリサーチギャップにアプローチしていることである。また、新聞や雑誌記事、アニュアルレポート等のレビューに加え、ユニクロの幹部や競合企業へのインタビュー調査を実施するなど、多角的な視点から資料・情報の収集を行っていることも本論文の信頼性を高めている。加えて、ユニクロの取り組みとその成果を3つの段階に分けて経時的に分析し、理論的・実践的示唆を導出している点が高く評価される。

他方、課題としては、1社のみの事例研究であるゆえ、抽出された知見の一般化に向けて今後さらなる検証が必要とされることが挙げられよう。また、定性的データの具体的な分析の手続きについて、もう少し詳細な説明が必要であったように思われる。さらに、インタビュー調査においては、サプライヤー側の見解がやや不足しているような感もある。

上記のような課題はあるものの、本論文は、独創的な問題意識・着眼点を有すると同時に、その結論も明快で説得力に富むものであり、学術・実務両面への貢献が大きいものと考える。よって、学会賞委員会は本論文を「研究論文最優秀賞」に値すると判断した。

 

学会賞委員長 古沢 昌之

学会賞に戻る