学会賞授賞作

2018年第9回多国籍企業学会賞「単行本の部」受賞作
学術研究奨励賞

竹内 竜介(2017)『外資系製薬企業の進化史―社会関係資本の活用と日本での事業展開―』中央経済社

受賞理由:

本書は、外資系製薬企業の日本での事業展開の歴史を明らかにしたものである。具体的には、日本における成長プロセスが異なる3社を取り上げ、「日本市場参入の理由・背景」「日本での事業展開の変遷」「日本市場での成果」等について、経営史的視点から詳細な事例研究がなされている。

本書の特徴は、先行研究を踏まえ、「外資系企業と現地アクターとの関係性」に着目し、「社会関係資本」を鍵概念とした分析を企図していることである。そして、製薬企業においては「医師の社会的ネットワークとの連携」が重要であるとの問題意識のもと、医師の社会的ネットワークに埋め込まれた社会関係資本へのアクセスと活用に関する各事例企業の巧拙を論じている点がユニークであると言えよう。また、事例の分析に際しては、公刊資料のみならず、当該外資系製薬企業関係者や医療機関関係者等への聞き取り調査を短期間に40回近く実施するなど、一次情報の収集に精力的に取り組んだ点も高く評価できる。

他方、本書には課題もある。まず、鍵概念である社会関係資本に関する先行研究のレビューがやや物足りないことである。鍵概念としての社会関係資本に関する議論を十分に尽くした上で、それをフレームワークとしたケースの分析を行うことが本来のあるべき姿と考える。また、本書の末尾で提示されている「海外子会社の進化」及び「海外子会社の埋め込み」に関しても、さらに掘り下げた議論が必要と思われる。

上記のような問題点はあるものの、本書は国際経営史研究と国際経営論の架橋を目指した労作であると言える。よって、学会賞委員会は本書を「学術研究奨励賞」に値すると判断した。

 

学会賞委員長 古沢 昌之

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