学会賞授賞作

2017年第8回多国籍企業学会賞「単行本の部」受賞作
入江猪太郎賞(2017年)

立本博文(2017)『プラットフォーム企業のグローバル戦略』有斐閣

受賞理由:

本書は新規性に富む体系的な研究成果として特筆される。日本の経済戦略、否、全世界各国にとっての重要な戦略としてオープン標準の戦略的活用が期待される中、かかる経済政策の観点からも、さらには、標準に関わる多国籍企業の戦略としてみても極めて重要な問題を、ビジネス・エコシステムを背景に意識して真正面から取り組んでいる。まずは、391ページにという膨大な研究成果であることに驚かされる、引用文献の多さと的確な引用の仕方、長年にわたる多くの綿密なインタビューを踏まえた現実解明の精密さは、信頼ある研究の証であり、多くの研究者が見習うべき点である。

こうした実証を通じた謙虚な研究態度とともに、理論的な研究でも優れる。とりわけ、二面市場の需要創出に関する直接効果と間接効果のモデル化、バンドルの参入障壁効果、ディフェンシブ・バンドリングの戦略的有効性と同バンドル価格の設定戦略、新規企業の参入時・不参入時における既存企業利益などの理論分析は大いに注目されよう。また方法論的に基本命題と下位命題の設定には、論旨の展開上妥当性が高く、本書の体系化がいかに優れているかを物語ろう。

第4章で提示された回帰モデルを使った統計分析には、線型加工モデルと交互作用モデルを使い分けるなど科学的精密性が見られ、加えて、主要な変数のマージナル効果図を表すなど創意工夫も凝らされている。

これらより、本書からは新たな多国籍企業論の研究として大いなる価値を見出せる。

今後、先進国企業と新興国企業、さらにはより発展が遅れた国の企業という中で、どのような企業内および企業間国際分業が成立するのかを、アーキテクチャー研究とオープン標準との関連で明らかにして頂きたい。日本企業とEU企業との標準化競争など、興味深い重要問題への解明にも期待したい。

特に研究課題を挙げるスキを見せない程の力作ゆえ、本書は第8回多国籍企業学会賞の中で入江猪太郎賞に十分値する。

 

学会賞委員会委員長 藤沢武史

学会賞に戻る