学会賞授賞作

2016年 多国籍企業学会賞「論文の部」 受賞作

古川千歳
Chitose Furukawa, “Dynamics of a critical problem-solving project team and creativity in a multiple-project environment”, Team Performance Management : An International Journal, Vol.22 Iss:1/2, 2016 March,pp.92-110.


本論文は、IT関連のソフトウェア企業グローバルサポート組織ユニットを事例として、複数プロジェクトを並行運用している組織内における緊急問題解決プロジェクトチームの変遷過程と創造性をテーマに選択し、それに関する定性的な調査を実施し、その結果を詳細かつ具体的に示している。かかる  成果の土台は、EURAM(European Academy of Management: ヨーロッパ経営学会)2015において研究報告をされ、査読者および学会報告時のコメントを反映させたところで形成され、国際的なジャーナルとして評価を高めているTeam Performance Managementに完成原稿を投稿され、研究論文として採択されるに至っている。

このように、研究論文として仕上げるに当たり理想的プロセスを経ており、古川千歳先生の研究成果が客観的に優れていることを示す1つの証左になろう。

むろん多国籍企業学会にふさわしい研究テーマであり、内容的に優れ、リサーチ手法も妥当であり、含意と示唆に富む研究であることは以下から十分に納得できるものとなっている。

まず先行研究サーベイを通じて、複数のプロジェクトを並行運用する環境下で緊急問題解決プロジェクトチームが抱える課題を、ダイナミクスと創造性という重視すべき観点から3つ設定している。そして、ITソフトウェアの多国籍企業のチームを事例としてドイツと日本の2拠点で6カ月にわたり、機能別チームの統括マネジャー、機能別多国籍チームのリーダー・メンバー、緊急問題解決プロジェクトチームのマネジャーに対し、半構造インタビューを実施している。計104名(うちドイツで51名)から得たデータを、先行研究で報告されている概念、すなわち、1)創造的な問題解決プロセス段階、2)複数プロジェクト運用成功要因、3)創造的なチームプロセスといった概念に従って、コーディングしている。その後、プロジェクトマネジメントと組織行動論に関する先行研究の概念と照合して分析を試み、今後の研究に向けて6つの命題を導き出している。

このような入念かつ着実な研究の進め方と詳細なる事例研究を通じて、多国籍企業研究の中で成果があまり見られない国際プロジェクトマネジメント論や国際組織行動論への学術貢献が古川先生の本論文により果たされたと言えよう。

今後の研究課題としては、他の組織での事例を比較考察の対象とすること、および本論文で提唱された6つの命題に関する因果関係の特定化を試みることが挙げられるに過ぎない。双方の研究課題に対しては、膨大な事例研究を経験済みであり、関連文献サーベイの蓄積が豊富である点から、解決に向けた努力が大いに期待されよう。

多国籍企業学会が重視する国際専門ジャーナルにおける単独執筆論文の採択、論文の研究手順と研究方法、さらに古川先生の研究姿勢および今後への期待などを総合評価し、学会賞委員会は総意の上で、本論文に学会賞(論文の部)の授与を決定した次第である。

 

文責:学会賞委員長 藤澤 武史

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