学会賞授賞作

学術研究奨励賞(2015年)

笠原民子(2014)『日本企業のグローバル人的資源管理』白桃書房


本書は、日本企業がグローバル化する過程で、人的資源管理にどのような変革が起こり、どのような経過をへて世界的に標準的と考えられるシステムに移行していくか、について包括的に研究した書物である。世界市場で競争する企業が、競争のプロセスをへて同質化・同形化していくという意味で、広く社会科学的なテーマと評価できる。日本企業が国際戦略を推し進める過程で、日本的な人的資源管理の枠組みが、国内外で様々な摩擦や機能障害を引き起こし、それを是正する活動を通じて自己変革を遂げるという「移行期のマネジメント」を緻密に追求したことが、評価の対象である。

また本書は日本企業の国際人的資源管理について、理論的・実証的に手堅くまとめた点でも評価できる。構成はオーソドックスであり、先行文献サーベイも包括的に網羅されている。

問題点を指摘すれば、定性・定量分析の鮮度や質を担保するためのデータ/サンプル量が手薄であり、独自情報ソースが限定的であるため、書籍全体に迫力が欠ける点である。とくにデータや事例の記述年度がやや古く、最新の情報に基づいていないという印象がする。また、今後の課題としては、グローバル人的資源管理(GHRM)という、極めて広範囲にわたるテーマを扱うためには、外国企業の事例研究あるいは日本企業のGHRMとの比較研究が必要であろう。「移行期のマネジメント」は、日本企業だけでなく、欧米企業も経験したはずである。著者の扱う日本企業の2事例だけで、どの程度、この概念が普遍化できるのか疑問と言えるだろう。また、GHRMという概念がいわゆるHRMの国際化と本質的にどう異なるのかについても、理論と実態の点から明らかにしてほしい。

以上のような課題は残るにしても、本書は著者なりにこのような広範囲なテーマを体系的にまとめた力作であり、今後のさらなる展開が期待できる。以上の理由により、学会賞委員会の総意として、学術研究奨励賞を授与することに決定した。

 

学会賞委員会委員長  安室憲一(大阪商業大学)

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