論文の部(2015年)
河合憲史 ; Naofumi Kawai, Roger Strange, “Subsidiary autonomy and performance in Japanese multinationals in Europe, ” International Business Review, Vol.23, pp504-515.
本論文は、海外子会社の自律性とパフォーマンスの関係を、日本企業の欧州子会社の場合に限定して考察したものである。とくに興味深いのは、コンティンジェンシー・アプローチを採ることである。コンティンジェンシー・アプローチでは、環境の不確実性やタービュラントに対して組織がどう対応し(自律性)、その結果どのような経営成果が達成されたのか、その関連性を分析する。分析モデル自体はシンプルである。
本論文では、自律性とパフォーマンスとの間の直接的関係は立証できなかったが、環境の不確実性および内部調整(日本人駐在員比率)がモデレータとして効いていることを示した。海外子会社の自律性とパフォーマンスの関係はこれまで多くの研究者の間で統一見解が出ておらず、繰り返し検証される過程で、依然として相反する実証結果が出ている。こうした現状において、著者らは、直接効果のみを見ていては不十分であること、モデレータとして環境不確実性および内部統制(ここでは日本人駐在員比率)を検討し、それらの間接効果が統計的に有意であることを示したことが興味深い。それと同時に、これらのモデレータはいずれも直接効果としては統計的に有意ではない。つまり、独立変数である子会社の自律性も、2つのモデレータも、いずれも単独ではパフォーマンスに影響を及ぼさないにもかかわらず、交差項としての効果をみると、統計的に有意な結果になっている。
課題としては、第一に、ごく限定的な論点に絞った考察であるため、子会社の自律性とパフォーマンスの関係をより包括的に検証することが望まれる。第二に、理論的構成概念の再検討と変数の測定方法について、納得のいく説明が必要である。例えば、ここでは日本人派遣社員(の比率)を親会社集権とは別の変数として扱うが、そもそも本国本社からの派遣社員は親会社集権化の代理変数ではないのか(経営現地化・自律性と逆相関)。このあたりの概念整理が不十分である。第三に、両仮説とも交差項の効果に関するものだが、そもそも大元となる因果関係、つまり子会社の自律性とパフォーマンスの関係が証明されていない以上、もう一度そこから検討しなおす必要があるだろう。
以上の問題点はあるものの、本論文は国際専門ジャーナルに掲載されたものであり、一定の評価を得ている。学会賞委員会は総意の上で、学会賞(論文の部)の授与を決定した。
学会賞委員会委員長 安室憲一(大阪商業大学)