入江猪太郎賞(2014年)
西井進剛（2013）『知識集約型企業のグローバル戦略とビジネスモデル』同文舘出版
本書は、著者の過去１０年間にわたる研究蓄積の纏めであり、知識集約型企業のグローバル戦略の本質を深く考察し、理論化した研究である。本書の特徴は、知識集約型企業として外資系経営コンサルティング・ファームに注目し、ビジネスモデルの観点から、その生成、発展、進化を跡付けたことである。研究方法としては、大量データに基づく統計的分析、丹念なインタビュー調査、詳細な事例研究を踏まえた客観的・科学的方法(三角測量法)を採用している。これらの方法論を駆使して、著者は、グローバル戦略のポイントは「適用性の高いコンサルティング方法論を、国境を越えて活用する」、「グローバルな規模で標準化されたサービス(ソリューション)を提供する」ことに見出している。これらの特色は伝統的なプロフェッショナル・サービスとは異質であり、従来のコンサルティング・ファームのビジネスモデルからも乖離している。
著者は、ローカルな強みを発揮しつつも、独自のビジネスモデルを駆使し、グローバルなプレゼンスを活かしながら国籍を超えた協働メカニズムを活用することがグローバルな知識集約型企業の特徴としている。知的サービス産業におけるグローバル戦略の本質をこれほど深く、体系的に調査し、理論化した研究はない。知的サービス企業の研究に広く応用できる基礎研究である。ただし、本書では「知識集約型企業」の概念整理を行なうものの、本論にではなく補章に纏められている。しかしながら、この概念こそ、本書の中核概念であることを考えると、これに優先順位を与えた研究が望まれる。今後の研究に期待したい。
以上の諸点を考慮し、当委員会は、本書を第１回入江猪太郎賞に値する独創的な業績と評価した。
学会賞委員会委員長 安室憲一(大阪商業大学)