学会賞授賞作

学術研究奨励賞(2013年)

川端庸子(2012)『小売業の国際電子商品調達-ウォルマート、アジェントリクス、シジシーの事例を中心に』同文舘出版


本書は2部から構成されている。第1部「小売業の国際化研究の検討」は、文献研究からなっている。第2部「国際電子商品調達の実証研究」は、本書の中心であり、ウォルマート、アジェントリクス、シジシーの事例から構成されている。

 第1部の小売業国際化研究では、海外出店、国際知識移転、国際商品調達の3要素(各章)に注目する。各要素についての詳細な文献研究ののち、著者は、小売業国際化の最も重要な要素として、「国際商品調達」に注目する。第2章は、それに関する事例研究である。

 ウォルマートは、国際商品調達を戦略的要素(優位性の源泉)ととらえ、自身が構築したリーテルリンクを中心に展開する。アジェントリクスはウォルマートを含む世界の大手小売業が共同利用のプラットフォームとして設立された。シジシーは中小小売業の共同調達システムとして形成された。この3つは異なる目的と機能で設立されている。

本書の長所は、従来の小売業国際化の研究の主流であった「海外店舗展開」、「知識移転」を踏まえたうえで、研究されることの少なかった「国際商品調達の電子商取引」に注目した点である。新しい領域に果敢にチャレンジしたことを評価したい。ただし、問題点も残っている。第1点は、国際電子商取引をもって「多国籍企業論」の研究と看做せるのか、という点である。とくに、中小小売業の国際商品調達のプラットフォーム(シジシー)は、物理的には、輸入業務に過ぎず、これをもって「多国籍的」事業活動と看做せるのかという疑問である。第2は、国際商品の電子商取引をもって競争優位(差別化)と看做せるか、である。M.Porterは、ITは模倣可能なので、競争優位の源泉にはならないと論じている。とくに共同利用のプラットフォーム(アジェントリクス、シジシー)は、個々の企業の差別的優位性にどう貢献しているのだろうか。また、どういう基準で3つの事例を選択したのかも示されていない。

 以上のように、本書は多くの課題を抱えているが、新しい分野に積極果敢に取り組んだ業績は評価される。今後は、電子商取引の専門企業であるアマゾン、楽天、タオバオなどに視野を広げるか、それとも、小売業の多国籍化に焦点を定めるのか、きちんと方向性を示してほしい。今後の研究の進展に期待したい。

 以上の評価から、川端康子著『小売業の国際電子商品調達』に対し「多国籍企業学会 学術研究奨励賞」を授与する。

学会賞委員会委員長  安室憲一(大阪商業大学 教授)

学会賞に戻る