35第3章 調査概要と仮説検証2007)。主観的経験であるプライドは、自尊心を高め、社会的地位を向上させ、それにより向社会的行動を促進すると指摘されている(有光,2008;Lewis, 2000;前田・結城,2023;Tracy & Robins, 2007)。上記の議論を踏まえると、ナショナル・プライドはナショナル・アイデンティティの構成要素であり、特に内集団に対する肯定的感情を強調する点が特徴である。それゆえ、ナショナル・プライドはナショナル・アイデンティティよりも強力に自国バイアスを引き起こすと考えられる。したがって、自国に対してプライドを感じた経験があると、消費者は内集団に対してより肯定的な態度を示すだろう。一方、外集団に対する態度は中立的になると推察される。以上の考察に基づき、仮説3と仮説4は次のように立てられる。H3:原産国プライドは中国のグローバル・ブランドの購買意欲に正の影響を与えるH4:原産国プライドは先進国のグローバル・ブランドの購買意欲に有意な影響を与えない1.調査設計仮説検証のためのアンケート調査の設計では、まず、調査票の測定尺度を検討した。これまでの議論を踏まえ、原産国プライドに関する具体的な側面として、経済の発展、製造能力の強化、科学技術や科学研究およびブランド品質の向上に対する評価を含めた。また、中国政府の政策要綱には、中国の自主ブランドや国潮ブランドの発展、ブランドのグローバル化が取り上げられていることから(前瞻産業研究院,2023)、ブランドの国際進出、外国製品を凌駕する分野の誕生、さらには国潮ブランドがファッション市場をリードすることに対する誇りも測定項目に組み込んだ。グローバル・ブランド価値の測定項目は、Steenkamp et al. (2003)、Bhardwaj et al. (2010)および李(2019)を参考に構成した。具体的な評価項目には、「世界中で販売されている」「世界各地で購入できる」「世界的な知名度」「ハイエンド」「品質信頼性」「プレステージ」「ステータス」を含めた。また、購買意欲の測定には、Diamantopoulos et al. (2011)を基に「どの程度購買したいか」という項目を採用した。さらに、調査対象(後述)の自動車市場が成熟していることを考慮し、「必要であれば購買する」という独自の項目を追加した。各項目には7段階評価のリッカート尺度を採用した。本稿は、中国と先進国のグローバル・ブランドを比較する研究であり、比較可能性を高めるため、国際的に注目を集めている新エネルギー車に焦点を当てた。2022年の新エネルギー車の世界シェアにおいて、1位は中国企業のBYDでシェアは18.3%(1,847,745台)、2位は米国企業のTESLAでシェアは13.0%(1,314,330台)であった(関,2023)。このことから、調査の比較対象として米国のブランドを選定した。調査対象地域は、新エネルギー車の販売台数が最も多い沿岸部都市である北京、上海、広州3に絞った。 JETRO (2023)によると、2023年8月の都市別販売台数は、上海市が30,548台、広州市が23,423台、北京市が22,111台の順となっている。中国沿岸部市場における原産国プライドとグローバル・ブランド消費 李 玲
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