多国籍企業研究第17号
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242.原産国プライドに関連する理論のレビューと仮説構築自国バイアスに関する代表的な概念として、消費者エスノセントリズムとナショナル・アイデンティティが挙げられる(Fischer et al., 2022; Verlegh, 2007)。消費者エスノセントリズムは、Shimp & Sharma(1987)によって提唱され、内集団への優越感と外集団への劣等感に基づく自民族中心主義を理論的基礎とし、内集団を支持し外集団を否定する傾向を示す概念である。実証研究では、自国の雇用や経済を守るべきだという道徳的側面が強調され、国産品と外国製品に対する購買意欲との関連性が検証された。一方、ナショナリティは消費者のアイデンティティの一部をなすため、消費者の自国への愛着は経済的な懸念をはるかに超えると主張し、Verlegh(2007)はナショナル・アイデンティティを国際マーケティング領域に拡張し、その効果を実証的に論じている。ナショナル・アイデンティティは国産品の購買意欲に有意な正の影響を与えた一方で、外国製品の購買意欲には有意な影響を及ぼさなかったことが確認された(Verlegh, 2007; Zeugner-Roth et al., 2015)。ティティの構成要素の一つであり、「ナショナル・アイデンティティの結果として、国民が自国に対して抱く肯定的な感情」を指す(Smith & Jarkko, 1998, p.1)。田辺(2001)は既存の理論研究を総括し、ナショナル・アイデンティティを「自己を自身の属するネーションに一体化させることを通じて形成される意識・信念・感情」と広義に定義し、その下位概念として、ネーションの範域基準、ナショナル・プライド、自国中心主義、排外性を挙げている。また、ナショナル・プライドは、ナショナル・アイデンティティのなかでも典型的かつ主要な「自己肯定」につながる感情的側面であり、自身の属する国家に関わる様々な事柄に対する誇りや自負心を指す(田辺,2001)。ナショナル・アイデンティティが国際マーケティング分野で議論される際には、Blank & Schmidt(2003)の定義がよく引用される(e.g., Fischer et al., 2022; Zeugner-Roth et al., 2015)。彼らの定義によれば、ナショナル・アイデンティティとは「国家への所属の重要性と、国家との内なる絆の主観的な意義」である(Blank & Schmidt, 2003, p.296)。国家との一体感が強い人は、ナショナル・プライドや国家を支援する必要性を感じ、その結果、外国製品よりも国産品を好む傾向が強まると指摘されている(Fischer et al., 2022; Verlegh, 2007; Zeugner-Roth et al., 2015)。他方、感情心理学において、プライドは成功に伴って経験される代表的な感情であり、達成感や自信に関わる肯定的な自己意識的感情2であるとされる(有光,2008;前田・結城,2023;Tracy & Robins, 感情は、基本的感情(basic emotions)と自己意識的感情(self-conscious emotions)に大別される(Fischer & Tangney, 1995)。基本的感情には怒り、恐怖、幸福感などが含まれ、生物学的に普遍的な性質を持ち、顔の表情によって特定できる。一方、自己意識的感情にはプライド、恥、罪悪感などがあり、個人の内面的な状態や思考が関与する主観的な経験であり、価値評価の主体が個人自身である点が特徴である。Smith & Jarkko(1998, p.1)によると、ナショナル・アイデンティティとは、「国民国家を統合し、他国との関係を形成する凝集力」である。また、ナショナル・プライドはナショナル・アイデン中国沿岸部市場における原産国プライドとグローバル・ブランド消費 李   玲

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