多国籍企業研究第17号
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第2章 先行研究レビューと仮説構築グ研究においても内集団バイアスを促進する主要因として見なされている(Verlegh, 2007; Zeugner-Roth et al., 2015)。しかし、ナショナル・プライドを独立変数として直接扱う実証研究は未だに少なく、さらなる検討が求められる。本稿では、中国市場の近年の変化を捕捉し、中国人消費者が自国の経済、技術、ブランドといった原産国属性に感じる誇りを総称して「原産国プライド」と定義する。この構成概念の理論的枠組みを検討し測定尺度の開発を試み、さらに、グローバル・ブランド消費への影響を実証する。第2章以降、まずグローバル・ブランド価値、自国バイアスに関わる代表的な概念である消費者エスノセントリズムとナショナル・アイデンティティに関する先行研究をレビューし、仮説を構築する。次に、アンケート調査を設計し、調査の結果を基に仮説検証を行う。最後に、仮説検証の結果を考察し、理論的および実践的なインプリケーションについて論じる。1.グローバル・ブランド価値に関する先行研究の概観と仮説構築グローバル・ブランドは、品質の保証、文化的神話、社会的責任といった価値を顕示し(Holt et al., 2004)、入手可能性、高い認知、標準化、力強さ、世界主義、社会的責任と結びつけられる(Dimofte et al., 2008)。また、グローバルな世界への帰属意識形成の経路(belongingness pathway)(Steenkamp et al., 2003)、グローバル市民権へのパスポート(a passport to global citizenship)(Strizhakova et al., 2011)としての価値も確認されている。や興奮、幸福への願望、③品質に関連した利便性と低リスク知覚、④環境的・倫理的責任へのコミットメント、⑤一貫性と標準化、である。さらに、ブランド・イメージによる効果は、原産国イメージと購買意欲における直接的な関係よりも説明力が高いことが示された(Diamantopoulos et al., 2011;古川・寺□,2018)。川端(2022)によると、ブランドに対する意味づけや価値づけは、市場ごとのコンテキストによって規定されるため、進出先市場でどのように捉えられているかを理解することが重要である。発展途上国の消費者は、社会的プレステージを獲得する手段として、自国ブランドよりも先進国のグローバル・ブランドを選好する(Bhardwaj et al., 2010)。Steenkamp et al. (2003)は、グローバル性を知覚品質やプレステージの先行要因と位置づけ、購買意欲との関連性を検証した。したがって、ブランド価値は購買意欲を促進する効果があり、仮説1と仮説2は次のように立てられる。H1:中国のグローバル・ブランドの価値は、購買意欲に正の影響を及ぼすH2:先進国のグローバル・ブランドの価値は、購買意欲に正の影響を及ぼすOzsomer(2012)は文献調査に基づき、グローバル・ブランドが提供するポジションの基本的特性を次のように提示している。①広範な利用可能性と高い認知度、グローバルな存在感、②達成感3中国沿岸部市場における原産国プライドとグローバル・ブランド消費 李   玲

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