多国籍企業研究第17号
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第4章 分析結果の考察と残された研究課題Steenkamp et al. (2003)の研究では、グローバル性は購買意欲に直接影響を及ぼさなかったが、知覚品質やプレステージを介して間接的に影響を与えたことが検証された。したがって、グローバル次に、原産国プライドに関する分析において、中国ブランドの購買意欲には正の影響を与えた一本稿は、西洋ブランドを長く好んできた中国人消費者の消費行動の変化に注目し、国産ブランドを選好する要因を自国の経済、技術、ブランドといった属性に対するプライドに求め、「原産国プライド」という概念を提唱した。また、原産国プライドとブランド価値がグローバル・ブランドの購買意欲に与える影響について実証的に解明してきた。分析結果は以下の通りである。まず、ブランド価値に関しては、グローバル性という因子が抽出された。グローバル性が購買意欲を促進する効果はそれが自国のものであるかどうかを問わず確認された。Diamantopoulos et al. (2011)の研究では、ブランド属性として「広く知られた製品」や「国際的な認知度」などが取り上げられ、これらの購買意欲との直接的な関係が示された。一方で、性の効果は(直接的であれ間接的であれ)確認されたと言える。方で、米国ブランドの購買意欲には有意な影響を及ぼさなかったことが明らかになった。多くの研究は、ナショナル・プライドの重要性を認識しつつも、ナショナル・アイデンティティに重点を置いて議論を展開してきた。本稿では、ナショナル・プライドに焦点を当て、その自国バイアスとしての効果を検証することで、ナショナル・アイデンティティに関する理論の発展に一定の貢献を果たしたと考えられる。上記の分析結果を踏まえ、以下の実践的インプリケーションを検討する。まず、多国籍企業がマーケティング戦略においてグローバル性を有効に活用する方法として、ブランドの認知度や販売地域に関する情報をコミュニケーション・メッセージに組み込み、より効果的なコミュニケーションとすることを提案する。次に、外国ブランドからみた原産国プライドの弊害とその活用方法について検討する。かつて中国製品には「安かろう悪かろう」というイメージが強かったが、近年ではデザイン性や品質の大幅な向上により、「安くても良質なもの」というポジティブなイメージに転換しつつある(電子デバイス産業新聞,2021/2/5)。また、国潮消費ブームの根幹には「品質」があると指摘されている(日経ビジネス,2023/12/21)。したがって、中国ブランドは機能的価値の面において確実に競争力を高めていると考えられる。その結果、品質を売りにする日系企業を含む多国籍企業は、「made in 先進国」というラベルだけでプレミアム価値を付加する従来の手法が通用しなくなる可能性が高まっている。特に、機能的価値の次元において、自社製品が中国の地場企業を含む競合他社とどの程度差別化できているかを、消費者の視点から慎重に評価すべきである。原産国プライドの影響により、品質が同等である場合には中国国産ブランドが優先的に選択される傾向が強まると予想される。一方、ナショナル・アイデンティティは消費者エスノセントリズムとは異なり、外国ブランドに対して中立的に作用する傾向がある。また、中国人消費者にとって、外国ブランドは国際的なナ11中国沿岸部市場における原産国プライドとグローバル・ブランド消費 李   玲

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