(2)取引費用理論液晶技術を用いた中間財企業の製品プラットフォームの構築プロセス 千島 智伸5材料を提供する複数の日系企業と設計時点から協業している」こと、②液晶パネルは製品の技術的な土台となる製品の中心となる機能を持ち、同社のパネルが複数の製品に共通基盤として用いられているからである。したがって、ディスプレイとしての液晶パネルを製品アーキテクチャの観点から検証し、製品の中心機能と成り得たプロセスを分析するため、以下のサブクエスチョン(以下, SQ)を設定する。SQ1: 液晶パネルを中心とした製品プラットフォームの形成に対し、インテグラル化とモジュール化はどのように影響したか?企業境界のデザインに関する研究は、企業の調達方法に関して市場と組織の関係を初めて示したCoase(1937)の研究によって示されている。この研究の代表的なものとして、日本と米国の自動車産業における部品調達手法の組織的な違いを見いだし、垂直統合や系列での取引構造の違いを示した浅沼・岩崎(1980)の研究が挙げられる。また、相原(2001)は、企業境界デザインと経営成果についての関係性を日本地域企業の境界デザインとイノベーションの相互関係から解明を試み、地域企業の置かれる環境において外部資源の有効的な活用方法を示している。取引費用(transaction cost)理論は、取引とそれに伴う諸費用を基本的な分析の対象としてCoase(1937)が提唱し、Williamson(1975, 1981),North(1990)によって精緻化された理論である。しかしながら、取引費用理論には幾つかの問題が指摘される(長谷川,1998)。第1に取引形態に戦略提携(アライアンス)や技術供与などで経営資源が獲得されていく動態的な現象をどの程度取り込むのか、という視点が欠けていることである(富山,2002)。第2に、内部化理論で企業境界の問題を取引相手との効率性に帰着させていることである。内部化理論とは、市場での取引を通じて資源の効率的な配分が達成されると考えられているが、何らかの事情で市場のメカニズムが有効に機能しない場合は取引コストが発生する。その際、企業は取引を企業組織内に取り込む内部化によって、より効率性を増すことができる。こうした取引コストの概念を用いながら、企業規模の拡大や多角化を説明しようとするのが内部化理論である。しかしながら、この理論にある問題点は、当該企業に対する競合企業の存在が考慮されておらず、相互依存関係にある企業間の機会主義が取引費用の重要な源泉であるが、そこでの相互作用は売り手と買い手という取引主体間であり、同一製品分野での競合企業間の水平的な相互作用の視点が欠落していることである。部品、原材料、生産工程の川上と川下間で取引される中間財は、顧客の仕様であるカスタム化に対応するための製造ラインや、取引相手との地理的近接性を保つ工場の新設、取引を繰り返す過程で生まれる知識の共有など、特殊資産を抱え込むことになりやすく、特殊資産が形成されると協業相手との関係で「ロックイン(lock in)」現象が起こる。そのため、取引相手を頻繁に変えることが難しくなる。つまり、開発スピードが重視される製品は、環境の不確実性が市場を通じて取引費用に与える影響よりも、現在、および、将来の価値を生成し実現するのに
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