多国籍企業研究第16号
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3. 2 NCPの機能と事例の傾向3. 3 日本NCPの取り組み たい。3月31日最終アクセス、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/housin.html)。58直近の改定が2006年に行われた1977年の多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(ILO多国籍企業宣言)の関連条項を反映している」との記載がある(OECD, 2011: para 49)。上述したように、OECD多国籍企業行動指針は法的な拘束力を持たない一方、各国にNCPの設置を定めている。そして、NCPは同指針の実行性を促進するため、個別の事例における、同指針に関する問題の解決に貢献することが求められている(OECD, 2011: 72-74)。そのため、各国NCPは、問題提起がなされた際に以下の手続きを行う。1.提起された問題が更なる検討に値するか否かについての初期評価を行い、当事者に回答する。2.更なる検討に値する場合には、当事者による問題解決を支援するため、関係者との協議を実施し、問題解決に向けた仲介または調停等の非敵対的な対応手段を提案する。3.上記の手続が完了した場合(または初期評価で更なる検討の必要が認められないと判断された場合)、提起された課題と経緯(提起された問題について当事者間で合意に至った場合は、合意内容を含む)について公的に入手可能な手続結果を作成する。2020年時点では、49カ国にNCPが設置され、100を超える国と地域をカバーし、500件を超える個別事例への対応がなされている(OECD, 2020: 5)。また、2011年から2019年までの個別事例の問題提起者については、NGO(40%)、労働組合(26%)、個人(22%)とNGOと労働者が大部分を占めている(OECD, 2020: 20)。一方、扱われる課題4は人権(51%)やデュー・ディリジェンス(49%)、労使関係(37%)に関連するものが多い(OECD, 2020: 16)。日本のNCP5については、連絡窓口として、「日本NCP」が外務省・厚生労働省・経済産業省の三者で構成されている。また、日本NCP、日本経済団体連合会(経団連)及び日本労働組合総連合会(連合)により「日本NCP委員会」が構成され、OECD多国籍企業指針の普及・実施に向けた意見交換等が行われている。2023年3月現在、OECDのデータベースには、日本NCPが関与した11件の事例(表1)が掲載されており、次のような特徴がある。1つ目に、取り上げられているテーマは、解雇や雇い止め、団体交渉や労使協議等、「Ⅴ章 雇用及び労使関係」に関する案件が最も多い(9件)。また、近年は、人権に関する事例が見られるようになっている(事例1,2,4,5,6)。2つ目に、問題提起者の大半を労働組合が占める(9件)。3つ目に、手続きに関して、初期評価の後、更なる検討に値すると判断され、日本NCPによって対話の提案がなされた事例が8件あった。その内、対話が成立したのは2件で、その他の事例(事例2,3,4,5,7,10)では、被提起企業側の合意を4 1つの事例に複数のテーマが関連していることがあるため、比率の合計は100%にならない点に注意され5 外務省ウェブサイト、OECD多国籍企業行動指針、2 各国連絡窓口(NCP)及び4 日本NCP委員会(2023年

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