多国籍企業研究第16号
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2 例えば、2021年、ある宿泊関連企業で、賃金についての合意に関する経営側の違反があり当局に報告したところ、労働組合員12名が解雇されたとの事例が報告されている(2023年3月31日最終アクセス、https://survey.ituc-csi.org/Indonesia.html#tabs-3)。3 各国担当窓口に関する資料(2023年3月31日最終アクセス、https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_emp/---emp_ent/---multi/documents/presentation/wcms_852240.pdf)。2. 3 ILOの多国籍企業宣言と同宣言の促進を目的としたツール56の低さが指摘されている(郷野、2022:4)。また、適用の課題として、労働組合活動を妨げる使用者の介入に関する課題が指摘されており(中嶋、2018:19)、この課題は上記のILO条約を批准しているインドネシア2でも確認されている。そのため、仮に、A国に本社を置く多国籍企業Bがインドネシアにサプライチェーンを展開している場合、A国が第87号及び第98号条約を批准し報告義務を履行していたとしても、A国はインドネシアにあるサプライチェーン上の企業にまで影響力を及ぼすことが困難な状況にあるため、多国籍企業Bを十分に規制することができないこととなる。フォローアップについては、1978年のILO理事会で各国政府に対して定期報告を要求することが決定し、翌年、ILO総会で決議として支持された(栗山、1999:390)。その後、2014年3月のILO理事会で、地域ごとに報告書を作成する仕組みが導入された(ILO, 2014: para 27)。地域別フォローアップの第一サイクルは2014年のアメリカ地域会議で開始され、その後アフリカ地域(2015年)、アジア太平洋地域(2016年)、欧州地域(2017年)の地域会議でそれぞれ報告書が作成され、第一サイクルで各地域において作成された報告書の内容を比較検討する資料が提出されている(ILO, 2018: 11-22)。また、多国籍企業宣言は、各国の事情に照らし適切かつ有意義である場合に、各国担当窓口(National focal points)を任命することを推奨している。各国担当窓口は、国レベルでの多国籍企業宣言とその原則の利用の促進を目的としており、政府省庁、多国籍企業及び労使団体間における多国籍企業宣言についての意識向上、能力構築イベントの開催、並びに、可能な場合には現地言語でのオンライン情報、対話プラットフォームの開発といった取り組みの実施が期待されている。2017年、ポルトガルにおいて、各国担当窓口が初めて設置され、2022年7月現在、9カ国に各国担当窓口が設置されている3。ILOはこの課題の克服を目的として、1977年、ILO理事会において、「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(以下、多国籍企業宣言)を採択した(ILO, 1977: 4)。同宣言は、雇用、訓練、労働条件・生活条件及び労使関係の分野についての原則を規定しており、同宣言における原則を「自主的」に遵守することを求めている。具体的には、第7パラグラフにおいて、政府、使用者団体、労働者団体、多国籍企業が、多国籍企業宣言において言及される原則を自発的意思に基づいて(voluntary basis)遵守することを勧めている(ILO, 2017: 3)。そして、別添Ⅱ(ILO, 2017: 21-25)において、自主的な行動を促すためのツールとして、地域別のフォローアップや各国担当窓口、ヘルプデスク、企業・労組間対話について言及している。

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