多国籍企業研究第16号
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1 2022年 電子情報技術産業協会「液晶パネル・有機ELパネルの市場動向」より。液晶技術を用いた中間財企業の製品プラットフォームの構築プロセス 千島 智伸21.はじめに(1)問題意識エレクトロニクス製品を取り巻くビジネス環境は、企業境界線が薄れ異業種との競争が激化して久しい。新たな製品価値の創造は単一企業では限界があると指摘され、特に液晶テレビ(以下,液晶TV)や生活家電品など総合電機メーカー(以下,セットメーカー)がこれまで得意としてきた技術は、機能の差別化が難しい状況が続いている(総務省,2017)。日本企業に起きているイノベーション研究に着目した柴田(2015)は、「イノベーションの創出には顧客価値と設計思想の2つの視点から接近すべき」と提起している。それは、顧客や市場に対しどのような価値を提供するか、もう1つは、製品やサービスに価値をもたらすことと開発の効果的なマネジメントで、これらの視点がイノベーションの創出には必要である。これまで顧客価値に関する研究は、企業イノベーションが研究における中心となったのに対し、製品・サービスに価値をもたらすことは、製品開発論や技術経営で分析が展開されている。したがって、昨今のビジネス環境下のイノベーションは、設計プロセスや製品開発のノウハウの中に、優れた技術を有用なサービスや製品に転換し、どのように価値を産み出し持続させるかという両方の視点が伴い、技術と経験を活用しながら世界の経済発展と社会課題解決に貢献していくことが求められている。他方、エレクトロニクス製品は主要な機能を有する企業と連携し差別性や汎用性を持つ多様な製品を市場に供給しているが、製品機能や品質強化を通じた差別性は部品の構成要素間に相互依存性がありコストが増える等のデメリットが存在する。また、汎用性を有する製品では、複雑性が無い部品は構成がわかりやすいため模倣や類似品に活用される等のリスクにさらされる。これまで、製造業が製品を設計する際に、製品機能の要素と取引企業との関係から製品アーキテクチャ論の概念が多くの研究に用いられ、その中でも本研究では、効率的な製品開発と技術イノベーションが連動し競争優位が持続する韓国液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:以下,LCD)メーカーの戦略に着目した。具体的には、液晶TV等にパネルを供給するサムスンディスプレイ社(以下,SDC)を取り上げる。SDCは、SONYとサムスン電子(以下,SEC)の間で2004年に合弁企業として発足し、SONYは2012年に株式を売却するまで経営に参画している。現在は、SECが100%株式を保有し、主な製品はスマートフォン・液晶TV・自動車の内装で使われるディスプレイパネルである。SDCは、SECの代表的な競合であるAppleのスマートフォンやタブレット端末のパネルに採用されるなど多様な顧客を持ち、大型液晶の世界シェア動向1は2021年に17.9%と世界シェア第2位で2008年から高い水準が持続している。元来、液晶は多くの日本企業が研究開発に取り組み、液晶技術を用いた表示装置として2000年以降に成長した産業である(沼上,1999)。欧米で初期の科学的発見や技術価値を見出し、実用化への道筋を日本企業が発展させ、成長果実を韓国・台湾の企業群に摘み取られた歴史的経緯がある

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