多国籍企業研究第16号
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505.結びにかえて【謝辞】繊維メーカーまたは紡織メーカーの製造拠点の移転が縫製メーカーの製造拠点の変更を牽引することである。一方、第2の仮説は、縫製メーカーの製造拠点の移転が繊維メーカーまたは紡織メーカーの製造拠点の変更に影響を及ぼさないことを仮定する。ネットワーク分析によって、前述の仮説を検証するとともに、一企業の行動変更がネットワークにおける他企業に及ぼす影響の度合いを推定する。本研究は、FTAの最新の動向を整理した上で、多国籍企業による国際投資に係る理論と先行研究の論点を要約し、FTAの揺らぎが多国籍企業の投資行動とサプライチェーンの構築に与える影響について分析の枠組みを構築した。アジア太平洋地域ではTPPとRCEPの二大広域FTAの交渉が進められた。合意前から交渉の拡大と停滞を繰り返したことに加え、調印後からも主要加盟国の離脱が多国籍企業に不利益をもたらし、不確実性が増している。FTAの揺らぎが国際通商ルールの混乱を招き、多国籍企業が構築したグローバル・サプライチェーンに多大な影響を及ぼすと考えられるが、従来の理論や先行研究では明らかにされていない。従来の研究では、FDIの影響要因として優位性の活用や費用の最小化、生産性の向上、取引ネットワーク内の先行企業の存在等を挙げているが、FTAという外部要因からFDIへの影響についての検討が少ない。とりわけFTAの交渉停滞や主要参加国の離脱等がFDIに影響を及ぼしているかの課題が残されている。また、同じネットワークにおいて取引相手が多ければより多くのFDIが誘致できることが理論的・実証的に示された。しかし、FTAの揺らぎがグローバル・サプライチェーンにどのような影響を与えているかについての分析が見当たらない。本研究は従来の理論と諸研究の成果を踏まえて、FTAという外部要因を加え、揺らぐ自由貿易下における多国籍企業の直接投資とグローバル・サプライチェーンの構築についての研究課題を4つ提起し、それぞれの分析の枠組みを提示した。これらを筆者自身の今後の研究課題とする。本研究は麗澤大学の小野リサーチセミナー(2022年4月27日)、中央大学経済研究所のオンライン公開研究会(2022年6月23日)と多国籍企業学会第14回全国大会(2022年6月26日)において発表の機会を得ました。小野宏哉先生(麗澤大学)、谷口洋志先生(中央大学)、堀口朋亨先生(国士舘大学)と臼井哲也先生(学習院大学)より多くのアドバイスをいただきました。感謝の意を申し上げます。本研究はJSPS科研費・基盤研究(C)の助成を受けたものの一部です(課題番号:22K01728)。科研費申請の際、山田寿一博士より研究方法など多くのご示唆をいただきました。また、原稿執筆の際、平田綾子様より表現などを校正していただきました。記してお礼を申し上げます。最後に、

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