4. 4 フィールド調査を通じた一次情報の獲得(課題3)4. 5 組織間のネットワーク関係の分析(課題4)49繊維→織物→衣服のサプライチェーンの立地分布にどのような変化が起きているか。課題2では、大手アパレルブランド企業が公開する製造委託工場一覧(サプライヤーズ・リストまたはファクトリー・リスト)等の企業情報をもとに、衣服製造サプライチェーンにおける糸を生産する繊維メーカー、織物を生産する織布メーカー、そして衣服を生産する縫製メーカーや副資材メーカーの立地分布と特徴を把握する。具体的に、TPPとRCEPの交渉開始、交渉拡大、調印、発効、主要加盟国の離脱等の変化につれて、サプライチェーンの立地分布にどのような変化が起きたか、初歩的な確認を行う。課題2のサプライヤーズ・リスト等で十分に把握できない事柄や、多国籍企業の立地選択における決定要因等について、筆者は繊維・衣服製造の関連企業に対する複数回のヒアリング調査と現場視察を通じて一次情報を収集する予定である。調査対象国は、TPPとRCEPの両方に加盟しているベトナムとマレーシアに限定せず、大手アパレルブランド企業の生産委託を多く受けているカンボジア、ミャンマー、インドネシア等に進出する多国籍企業および現地企業に対してもヒアリング調査を実施する計画を立てる。調査対象企業は、業界団体、繊維・衣服製造の多国籍企業、海外子会社、海外の受託製造企業及びそれらの川上や川下となる取引先等、サプライチェーンにおいて異なる組織メンバーから情報を網羅的に収集する。ヒアリング調査で得ようとする情報は、⑴サプライチェーン構築の立地条件と選択決定要因、⑵FTAの影響によるサプライチェーンの再構築のリスクとベネフィット、⑶川上の供給先と川下の出荷先の取引先情報及びその立地分布等である。ヒアリング調査を通じたケーススタディ分析では、すべての現象を総括的に説明しがたいものの、複数の国に立地している多くの企業や団体に対するヒアリング調査を行うことにより、経営の現場から事実をより精度よく把握することができる。課題2と課題3で収集した繊維・衣服製造企業のサプライチェーンの立地分布、割合等の情報をもとに、Pajekネットワーク分析33を用い、組織間のネットワーク関係を分析する。衣服製造のサプライチェーンの中で、糸を製造する「繊維メーカー」、織物を製造する「紡織メーカー」と衣服を製造する「縫製メーカー」の三者間の産業特性が異なるため、分けて検討する必要がある。まず、縫製メーカーには高度な製造技術が必要とせず、海外に移転しやすい特性がある。一方、その川上となる繊維メーカーと紡織メーカーには製造技術が比較的に高く、大規模な設備を要するため、製造拠点の移転には非常にコストがかかる上、新しい移転先で優れた人材やサプライヤーの開拓は容易ではない。こうした理由から、課題4の仮説を次のように立てる。第1の仮説は、33 Pajekネットワーク分析の詳細については安田(2009)を参照する。
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