多国籍企業研究第16号
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4. 3 繊維・衣服製造サプライチェーンの立地分布(課題2)れ、TPP参加国への輸出が低関税等を享受することができる。TPP、RCEPTPP、RCEP調印前調印後中国(繊維・織物の製造)輸出日本、台湾、中国などの多国籍企業ベトナム(衣類の製造)ベトナム、マレーシアFDI(繊維・織物、衣類の製造)輸出輸出ASEAN市場、米国市場などASEAN市場、米国市場など32 TPPでの衣類の原産地規則として、糸、生地、縫製等の工程をTPP参加国で行った場合に原産地とみなさ図4 国際分業における投資と輸出の流れ48に、日本(2協定に加盟)、台湾(RCEPに未加盟だがTPPに加盟申請中)、中国(RCEPに加盟だがTPPに加盟申請中)を選定する。第3に、投資受入国は2協定に加盟しているベトナムとマレーシアを選び、低関税を求める国の企業からの投資の変化が広域FTAにどの程度の影響を受けたかを推定する。課題1の結果を踏まえて、課題2ではミクロ的な視点から繊維・衣服製造サプライチェーンの立地分布およびその変化を調べる。従来の繊維・衣料品のサプライチェーンは図4の上段の流れ図に示すように、中国が繊維と織物を生産し、それらをベトナムに輸出し、ベトナムが中国生産の織物を使い、衣料品を生産し、主に米国に輸出するという国際分業であった。TPP発効後、ベトナムで製造した衣類製品の織物や副資材がTPPの非加盟国の中国から輸入したものであれば、TPPの原産地規則(yarn-forward rule)32に反し、当時のTPP加盟国の米国に低関税で輸出できない。そのため、図4の下段の流れ図に示すように、繊維・織物製造の多国籍企業は中国から徐々に撤退し、TPP加盟国かつ衣料品の製造大国であるベトナムに投資を拡大し、ベトナムで繊維から衣類まで一貫生産のサプライチェーンを構築することが予測された(石川、2016)。一方、RCEPの交渉拡大と停滞を繰り返していた2018年頃から、米中貿易摩擦が勃発し、中国で生産した衣類製品の対米輸出がより一層困難になった。そのため、多国籍企業は中国撤退の動きを加速し、TPPとRCEPの両方に加盟しているベトナムとマレーシアに投資を拡大し、両国での生産体制を強化することが考えられる。こうした背景を鑑み、課題2と課題3の仮説を次のように立てる。第1の仮説は、中国に生産拠点を持つ多国籍企業はTPP交渉拡大の2010年から、繊維・織物の製造拠点を中国からベトナムに移転させていることである。第2の仮説は、2017年に米国がTPPを離脱し、TPP加盟国からの対米輸出の原産地規則の問題がなくなったが、2018年に米中貿易摩擦が勃発したため、繊維・織物の製造拠点を中国からベトナムとマレーシアへの移転がより一層加速したことである。

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