多国籍企業研究第16号
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4. 2 FTAの揺らぎがFDIに与える影響(課題1)2016.22017.1米国離脱  2018  米中貿易  摩擦勃発20192020.1115ヶ国署名(インド離脱)2010.3交渉拡大TPPRCEPFDI増加FDI増加12ヶ国署名2012.11交渉開始FDI増加しないコロナ禍FDI増加しない2022.1発効発生図3 TPPとRCEPの進捗とFDIの変化47ることである。本研究が繊維・衣服製造企業を分析対象として選ぶ理由は2点ある。1点目は、繊維・衣服産業には高度な製造技術を必要とせず、海外に移転しやすい特性があり、多国籍企業は生産拠点を次々と低関税かつ低製造コストの国にシフトさせるため、FTAの交渉拡大や停滞の影響を受けやすいからである。2点目は、繊維・衣服産業の製造工程が極めて複雑であり、複数の国に跨って細かい国際分業が形成されているため、ある企業が生産拠点を変更すれば、その川上や川下となるサプライヤーの移転が牽引されやすいからである。そこで、以下では研究課題を4つ提起し、分析の枠組みを構築する。第2章で述べたが、TPPとRCEPが交渉の拡大と停滞を繰り返し、結果的に調印・発効に至ったが、米国はTPP調印の翌年に離脱し、インドもRCEPの署名式前に交渉から離脱した。アジア太平洋地域で推進されてきたTPPとRCEPという二大広域FTAは揺らぎ始めている。課題1を明らかにするために、各国が公表する投資の統計情報をもとに国家別と業種別のデータを抽出し、回帰分析を用いて推定する。回帰分析を行うに際して、第1に、多国籍企業の投資行動に影響を与えうる広域FTAのTPPとRCEPをダミー変数として投入する。第2に、投資国については主要なFTAへの参加状況の異なる3ヶ国のFDIがFTA変動の影響を受けたかを確認するためFTAの揺らぎがFDIに与える影響を今後の研究課題1に設定する。課題1の仮説を図3に示すように立てる。すなわち、TPP交渉拡大の2010年から、またRCEP交渉開始の2012年から、低コストや低関税率を狙う多国籍企業は積極的に製造拠点をTPPもしくはRCEPの加盟国に移転させているため、FDIが増加したと想定する。一方、米国のTPP離脱の2017年から、またコロナ禍の最中にRCEPが調印された2020年から、多国籍企業によるTPPやRCEPの加盟国への投資は増加も減少もしないと仮定する。なぜなら、製造業に多く固定費用の初期投入を要し、参入と撤退の障壁が高いため、海外に投資し製造サプライチェーンを構築すれば、事業を撤退させることは容易ではないからである。こうして、FTAの先行きが不透明で、多国籍企業が本来求める利益が減少すると思われても、新規進出をしないが、すでに操業している事業を撤退させることもしないと想定しFDIは大幅に増減しないと考える。

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