3. 2 費用の最小化に関する投資理論42次に、「費用の最小化」の論点は、企業がより低い生産コストを追求するために、製造工程を海外に移転させるものである。代表的な理論は、工業立地論(Weber, 1909)、プロダクトサイクル論(Vernon, 1966)、企業内の国際分業論(Helleiner, 1973)、産業の比較優位論(Kojima, 1973)等が挙げられる。ウェーバー(Weber)の工業立地論では、原材料調達と完成品出荷に発生する輸送費用および製造費用の最小化に焦点を置き、産業集積の利益を論じた。企業が製造拠点を決める際に、製造現地の製造費用だけでなく、原材料の供給地との距離、消費市場との距離及びそれらの輸送費用も考慮に入れる。ウェーバーが言う最適な立地とは、原材料調達の輸送費等が比較的に高い場合、製造拠点を原材料供給地に近いところに立地するが、完成品出荷の輸送費等が比較的高い場合、製造拠点を消費市場に近いところに立地することである。こうして、産業の川上、川中、川下といったサプライチェーンが同じ地域に集積することによって、輸送費用の最小化が達成され、それぞれのメーカーは集積の利益が得られる。バーノン(Vernon)は、国際投資・国際貿易の観点で提示したプロダクトサイクル論において、新製品、成熟製品と標準化製品の3段階に分け、米系の多国籍企業が標準化製品の製造活動を米国から外国に立地展開していくことを論じている。新製品の段階では、米国企業は自ら開発した新製品の製造と商品を国内にとどめ、技術と利潤がともに高い。成熟製品の段階では、米国国内で企業間の技術格差が縮小し、市場の成長が鈍化するに伴い、国内製造の製品を一部輸出し始め、利潤が低下する。標準化製品の段階になると、米国企業が最初に開発した製品の技術が汎用化したため、利潤が極めて低くなる。この時、多国籍企業は労働コストの低い発展途上国に直接投資を行い、標準化された技術を海外に移転させるとともに、海外で製造した最終製品を本国に一部輸出するため米国では逆輸入が増える。こうして多国籍企業の製造活動が海外に立地展開されることにより、米国と外国との貿易構造は逆転する。ヘライナー(Helleiner)は、最終製品の製造活動の国際展開を扱ったバーノンの理論と異なり、製品の製造工程を中間製品の製造と最終製品の製造に分解し、その中の労働集約的な製造工程を発展途上国へ移転する「企業内の国際分業」が形成されることを発見した。ヘライナーは、各々の製造プロセスに着目し、標準化されていない製造工程でも労働集約的な製造工程であれば、その技術の発展途上国への移転が可能になることを論じている。小島(Kojima)は、製品の国際移動を論じたリカードの比較生産費説に、資本の国際移動を加え、海外直接投資が自国の比較劣位産業から行われる事象をモデル化した。具体的に、東アジアの比較優位産業が、繊維等の労働集約的産業から、鉄鋼等の資本集約的産業、さらに電子機器等の知識・技術集約的産業へと転換するにつれて、投資国の比較劣位産業の企業は、資本等の経営資源に比較優位を持つ国に移転させることによって、投資国の比較優位産業が継起的に高度化する26。26 小島の比較生産費差の計算方法について詳しくは田中(2009)を参照する。
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