2. 4 FTAの揺らぎと多国籍企業3. 1 優位性の活用に関する投資理論である。22 台湾のFTA参加問題について連(2018)を参照する。23 TPPへの新規加盟国追加のリスクについて連(2022)を参照する。24 第3. 1〜3. 5節の内容は、鈴木(2000)(2015)(2018)、田中(2009)と劉(2009)等を参考に整理したもの25 国際金融論で言う国際投資は、資金が金利の低い国から高い国へと流れていくことである。403.FDIに関する先行研究自由貿易が進めば進むほど、多国籍企業は輸出に有利な国へ生産を移転しやすく、サプライチェーン構築の効率化を促される。しかし、交渉停滞、主要参加国の離脱、新規加盟国の追加等、アジア太平洋地域の国々が積極的に推進してきたFTAが揺らいでいる。低関税や低コストを求める多国籍企業にとっては、すでに構築した国際製造ネットワークを変更することは容易ではない。多国籍企業の投資行動やグローバル・サプライチェーンの構築に影響を与える要因は何か。次章では、企業の国際化活動に関連する理論と先行研究の論点を整理する。企業の国際化活動に関する理論は、静的な分析と動的な分析に大別できる24。海外直接投資(FDI)に係る理論は企業の投資目的とその決定要因に着目した静的な分析である(3. 1節と3. 2節)。一方、国際化の段階論は企業の経験累積がもたらす投資の拡大と投資経路の変化を説明する動的な分析である(3. 3節、3. 4節と3. 5節)。国際投資に関する理論の展開を図1にまとめる。1980年代以前のFDI理論は、先進国の大企業を対象に多国籍企業の投資目的と行動によって「優位性の活用」と「費用の最小化」の2パターンに大別されている。まず、「優位性の活用」は、自社の優位性の国際間移転がもたらす利益を論じたものである。代表的な理論は、寡占的優位論(Hymer, 1960)、折衷理論(Dunning, 1979)、内部化理論(Rugman, 1981)等がある。ハイマー(Hymer)は国際金融論25で企業の国際投資を説明しきれないことを指摘し、企業の海外事業活動の視点から米・欧の間の直接投資の相互浸透現象を観察し、寡占企業の海外での優位性の活用を説明した。ハイマーは完全競争企業を否定し、海外の現地企業と競争するために、寡占的WTOの機能不全が二国間FTAの交渉拡大をもたらしているが、二国間FTAが非効率なため、アジア太平洋地域でTPPとRCEPの二大広域FTAが進められている。現在、TPPから離脱した米国や参加が拒否された台湾22を除き、アジア太平洋を囲むほとんどの国がTPPもしくはRCEPに参加しており、両方の協定に参加している国も多い。両方の協定とも合意に至る前に交渉の拡大と停滞を繰り返したが、結果的に調印に至った。合意後、米国のTPP離脱やインドのRCEP離脱等が発生している。加えて、今後新規加盟国の追加により発生しうるリスクも考えられる23。
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