14 三立新聞台「消失的國界―新南向崛起PART1」。15 「泛亜鉄道」という高速鉄道プロジェクトは、中国の雲南昆明からマレーシアのクアラルンプールとシンガポールに向かう高速鉄道プロジェクトであり、東線、中線と西線の3つのルートからなる。「東線」は雲南昆明からベトナムのハノイ、ホーチミン、カンボジアを経由し、クアラルンプールとシンガポールに至る。「中線」は雲南昆明からラオス、タイ、カンボジアを経由し、クアラルンプールとシンガポールに至る。「西線」は雲南昆明からミャンマー、タイ、カンボジアを経由し、クアラルンプールとシンガポールに至る。16 ラウ(2018)。17 中野(2019)。18 2022年1月1日に日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、オーストラリアとニュージーランドの10ヶ国においてRCEPが発効した。韓国においては同年2月1日に発効した。19 経済産業省「RCEPの概要(外務省)」。20 川瀬(2021)。21 TPPとRCEPの参加国の譲許内容と関税撤廃期間について、経済産業省が公開する「TPP11協定における工業製品関税(経済産業省関連分)に関する内容の概要」と「RCEP(工業製品関税)の概要について」を参照する。39ないため、RCEP合意後の輸出拡大を期待しないどころか、関税譲歩後、中国からの輸入急増を警戒し、貿易自由化の交渉に応じないと表明した(助川、2016)。また、RCEP交渉開始後の2014年5月に、ベトナムは南シナ海のベトナム海域に違法設置した中国企業の石油掘削問題をめぐり中国の艦船との衝突が相次ぎ、ベトナム国内で「反中デモ14」等が発生した。中越間でRCEP合意後の経済的利益よりも政治的に対立していた。加えて、2018年5月にマレーシアでは建国から4代目の首相であったマハティールが再び首相に就任し、経済的な理由で前政権が進めた高速鉄道プロジェクト15のクアラルンプールとシンガポール間の建設を中止させた。この建設は中国の一帯一路で重視されたため、建設の中止が中国に大きな打撃を与え16、中国とマレーシアの間の対立を深めた。さらに、中国は2019年4月にラオスで開かれた会合でRCEPの交渉国からインド、オーストラリア、ニュージーランドを除外したASEAN+3の経済枠組み交渉を再び提案したが、その場で日本やASEANの一部の国が反発し、交渉が破裂した17。長らく交渉されてきたRCEPはようやく2020年11月の第4回首脳会議(テレビ会議)で妥結し、インドを除いた15ヶ国が正式に署名した。2022年1月1日に10ヶ国18で批准された。インドは2019年11月からRCEPの交渉に不参加し、署名式の前に離脱した。インドを除いたRCEPの15ヶ国の規模は世界のGDP、人口、貿易総額の約30%19を占め、依然に重要な自由貿易協定である。しかし、RCEPは労働や環境のルール等を欠き、高レベルの協定とは言えない20。TPP加盟国の多くは工業製品の輸入関税を即時に撤廃し、ほとんどの品目が最終的に11年目に完全撤廃を約束している。それに対して、RCEPは工業製品の即時撤廃率が低く、最終的な関税撤廃期限が10年〜20年になる品目が多い21。RCEPはTPPに比べて自由化率が低いため、加盟国は即時の関税引き下げや関税撤廃による経済的な利益を享受することができない。米中貿易摩擦が収束せず、コロナ禍が収まらない2020年にRCEP協定が調印されたが、このような状況下では国にとっても企業にとってもメリットが期待できず、今後の先行きに不透明感が増す。
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