7 米国のTPP離脱後、米国を除く11ヶ国は2018年3月に「環太平洋経済連携協定(TPP)」を「包括的及び先進的な環太平洋経済連携協定(CPTPP)」に名称変更し署名した。本稿では国際連合貿易開発会議(UNCTAD)の表記に倣ってTPPに統一する。8 ジェトロ『TPP11解説書―TPP11の特恵関税の活用について―』。9 外務省「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定概要」。10 経済産業省「TPP11協定における工業製品関税(経済産業省関連分)に関する内容の概要」。11 瀬口(2021)。12 経済産業省「TPP11について」。13 馬田(2016:6)。2. 3 RCEPの交渉、停滞と妥結38協定を「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)7へと名称変更し署名した。CPTPP(通称TPP11、以下ではTPP)は米国が離脱したことにより、投資やサービス貿易等一部の項目を凍結して発効したものであるが8、依然として有効な自由貿易協定である。TPPに加盟している11ヶ国の人口は世界人口の約7%(5.1億人)、また11ヶ国のGDPは世界GDPの約13.1%(11.2兆ドル)を占め、域内貿易比率は約15.8%(2.9兆ドル)を有している9。工業製品の関税率の70%〜90%程度が即時に撤廃され、ほとんどの品目が最終的には11年目に完全撤廃を約束している10。加えて、投資の自由化及び円滑化が進められるとともに、高水準の通商ルールが構築され、自由化率の極めて高い自由貿易協定である。TPPはグローバル経済を健全に発展させる意義が大きく、機能不全のWTOに代わって自由貿易を支えるプラットフォームになるとの期待が高い11。現在、TPPに関心を持つ潜在的な新規加盟国は英国、台湾、韓国、中国、インドネシア、コロンビア等がある12。しかし、TPPへの加盟は既存の加盟国全員の賛成を得なければならないため、新規加盟国の追加は決して容易なことではない。TPPが合意に至る前、中国は米国主導のTPPへの交渉参加に阻まれ、国際生産ネットワークがASEAN諸国に移転される危機感を持っていたため、2005年にASEANに日本、中国、韓国の3ヶ国を加え、「東アジア自由貿易圏」(EAFTA)構想を提案した。これはASEAN+3とも呼ばれ、RCEPの原点であると言われている(助川、2016)。一方、日本は中国主導のASEAN+3構想に懸念を抱き、2007年にインド、オーストラリア、ニュージーランドを加え、「東アジア包括的経済連携」(CEPEA)構想を提案し、16ヶ国の交渉に拡大した。その後、2011年にASEANはこれまで多くの提案をRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)という名称に収斂させ、2012年11月に16ヶ国による交渉が正式に開始した。RCEPの交渉に参加した16ヶ国のGDPは世界GDPの29.5%を占め、米国離脱前のTPPに比べて規模はやや小さいが、域内の人口数は世界人口の49%を占め、域内貿易比率は43.2%を占めるほど高いこと13から、合意後の関税撤廃や関税引き下げが達成できれば、多大な貿易創出効果が期待できる。RCEPはASEANの10ヶ国を中心に交渉されていたものであるが、ASEAN諸国は中国との軋轢が激しく、交渉の停滞と再開を繰り返していた。例えば、インドはRCEP地域が主要な輸出先では
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