多国籍企業研究第16号
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1 自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)とはしばしば併存して使用されている。FTAとは特定の国や地域の間で、物品貿易の関税やサービス貿易の障壁等を削除・撤廃する協定のことを指す。一方、EPAとは物品貿易やサービス貿易の関税削減・撤廃を含め、ヒト、モノ、カネの移動の自由化・円滑化を図り、幅広い経済関係の強化を図る協定である(ジェトロ『EPA活用マニュアル』を参照)。本稿ではFTAに統一して表記する。2 第2章の内容は筆者の初出論文の連(2019)とLien(2019)をベースに最新の動向を加筆したものである。3 WTOドーハ・ラウンド交渉の7分野の詳細については、①農業(関税・国内補助金の削減、輸出補助金の撤廃など)、②非農産品(鉱工業品及び林水産品の関税削減など)、③サービス(サービスの市場アクセス、国内規制など)、④ルール(アンチ・ダンピング協定、補助金協定等の規律の強化)、⑤紛争解決(紛争解決手続了解の改正)、⑥開発(途上国に対する扱い、貿易のための援助の促進)、⑦貿易と環境(貿易の側面から環境問題を検討)である(外務省「WTOドーハ・ラウンド交渉〜自由貿易体制の共通インフラ強化〜」)。361.研究の背景と目的2.FTAの展開と問題2. 1 WTOの機能低下と二国間FTAの交渉拡大FTAの揺らぎが多国籍企業の投資行動とサプライチェーン構築にどのようなインパクトを及ぼしているか。本研究はプレスタディとして、FTAの最新の動向を整理した上で、多国籍企業による直接投資と企業活動のグローバル化に係る理論と研究をレビューすることを通じて、今後の研究課題と分析の枠組みを構築することを目的としている。WTOは、1995年に「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)を内包し、それを引き継ぐ形として発足した。2001年に始まったWTOドーハ・ラウンドは農業、非農業品、サービス、ルール、紛争解決、開発、貿易と環境の7分野3をめぐる交渉が続いてきている。しかし、WTOの意思決定は全会一致が基本であるため、ドーハ・ラウンドの交渉についてWTO加盟の先進国と発展途上過去十数年間、二国間・地域間の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)1が進展し、調印と発効の数が激増している。貿易自由化や投資自由化の展開が多国籍企業の海外直接投資(FDI)を促し、ひいては中間製品を供給する川上企業や川下企業の国際化を牽引するまで、製造サプライチェーンは網の目のように世界に張り巡らされている。しかし、近年、保護主義が台頭し、米国のTPP離脱、米中貿易摩擦の長期化、コロナ禍の最中に調印・発効したRCEPの機能低下等、これまで推進されてきたFTAは揺らぎ始めている。本論文の構成は5章からなる。本章において研究の背景と目的を説明したのち、第2章では、 研究の背景となる自由貿易の展開に関しては、WTO、二国間FTA、TPP、RCEP等のFTAの最新の動向を整理する。第3章では、FDIに関する理論及び近年の研究をレビューし、先行研究の成果と残された課題を整理する。第4章では、今後の研究課題を提示し、分析の枠組みを構築する。 第5章では、結びにかえて本研究をまとめる。自由貿易協定の展開と交渉拡大2について、世界貿易機関(WTO)から二国間FTAへ、そして二大広域FTAのTPPとRCEPという順に述べる。

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