多国籍企業研究第16号
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エスニック・マーケティングを活用した海外市場参入から市場全体攻略へ      ― Grupo Bimbo社による買収した経営資源を活用した米国市場攻略 ― 杉村 亮介335.結論と今後の課題ダイナミック・ケイパビリティの新たなタイプを提案し、既存研究を拡張させた。「エスニック・マリアージュ」による海外市場全体の攻略は、製品がエスニック・クロスオーバーを起こさなくても海外市場全体を攻略できる場合があることを示している。ビンボ社は、合計4件の大型買収を実施し、合計12回(買収4件×3つのステップ)にわたり、既存経営資源と新規経営資源の組み合わせを行ない、「エスニック・マリアージュ」により海外市場全体を攻略することができた。本稿では、ビンボ社の米国市場への参入と市場での地位確立の経緯をエスニック・マーケティングの視点から明らかにしたとともに、参入先の市場での市場のさらなる拡大には、既存の経営資源と新たに獲得した経営資源をうまく組み合わせる能力が必要になることを示した。つまり、ビンボ社のケースは、パンという製品において、エスニック・マーケティング及び「エスニック・マリアージュ」を活用し、米国市場全体を攻略できることを示した。この考察結果から導き出される理論的及び実務的インプリケーションは、次のとおり5点あげられる。まず、既存経営資源と新規経営資源を連続して上手く組み合わせ、相乗効果を生み出す、「エスニック・マリアージュ」とでも呼べる能力があることを仮説として示した。これは基本的にダイナミック・ケイパビリティであり、ダイナミック・ケイパビリティの概念に内包される様々なタイプの一つである。つまり、ダイナミック・ケイパビリティの新たなタイプを提案し、既存研究を拡張させたことに理論的貢献がある。この「エスニック・マリアージュ」の最大の特徴は、エスニシティに焦点を当て、異なるエスニシティ由来の既存ブランドと新規ブランドが、それぞれのエスニシティのアイデンティティを堅持している点にある。ビンボ社の事例でいえば、ビンボ社はメキシコ系エスニック市場では本国の製品ブランドを活用するとともに、メインストリーム市場では買収先の現地製品ブランドを積極的に活用していた。2つ目は、「エスニック・マリアージュ」を活用することによって、エスニック・マーケティングの先行研究で挙げられていた二点の課題、エスニック市場の需要規模の小ささ、及び広域のエスニック市場にアクセスしにくい点を克服できることを示した。海外市場において、(パンのような)エスニック・エンベデッドネスが強い商品は、母国系エスニック市場から抜け出せないことが既存研究の課題となっていたが、「エスニック・マリアージュ」によって克服できることを示した。3つ目は、海外市場における最終的なゴールを、(エスニック市場だけでなく、)メインストリーム市場を含む市場全体の攻略として設定できる企業こそが、「エスニック・マリアージュ」を活用した市場拡大の恩恵を受けられる点を示した。4つ目は、「エスニック・マリアージュ」を活用することを前提として、海外市場に小さく入って、そこから大きくしていく戦略があることを示した。最後に、日本のパンメーカー数社の失敗によると、自国のエスニシティ由来のブランド(自社ブランド)の方が優れているという思い込みにより、他国のエスニシティ由来のブランド(他社ブラン

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