多国籍企業研究第16号
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17 中日新聞縮刷版(1983年10月25日)831頁のタイトル名「米国へ本格進出」より。18 ビンボ社プレスリリース(2002年6月22日発表)による「ジョージ・ウェストン社の米国西部の製パン事業買収」より。1_22_02GW_eng.doc(grupobimbo-com-custom01-assets.s3.amazonaws.com)エスニック・マーケティングを活用した海外市場参入から市場全体攻略へ      ― Grupo Bimbo社による買収した経営資源を活用した米国市場攻略 ― 杉村 亮介図表5 経営資源の組み合わせとエスニック・マリアージュ31(出所)筆者作成以上のように、ステップ③、④、⑤における「新規流通ルート及び新規販路」の創出において、既存経営資源の「高度な流通オペレーション能力」が中核的な役割を果たし、相乗効果を生み出していた。「高度な流通オペレーション能力」を背景に、新規流通ルート及び新規販路を次々に構築することができたのである。また、ステップ③から⑤までの一連の流れにおいて、各ステップでの次なる経営資源の創出にあたり、製品ブランドを本国での製品ブランド(既存経営資源)、現地の製品ブランド(新規経営資源)、再び本国での製品ブランド(既存経営資源)へと切り替えていた。杉村(2021)によると、日本のある大手パンメーカーは、米国において自社ブランドで売ることにこだわり17、現地ブランドを獲得する選択をしなかった。対照的に、ビンボ社は買収先の現地ブランド製品を積極的に有効活用していた。ビンボ社は買収によって現地ブランドを手に入れた際に非常に喜び18、それらのブランドによってメインストリーム市場をさらに拡大することができると考えていた(Goldberg et al., 1998, p.7)。この違いが生まれた要因は、ビンボ社がエスニック・グループ間に存在するパン(や味覚)の違いに優劣はないことを十分に認識できていた点にある。ビンボ社は、異なるエスニシティ由来の製品ブランド(既存ブランドと新規獲得ブランド)を両方とも活用し、既存経営資源と新規経営資源を連続的に上手く組み合わせながら相乗効果を生み出し、次なる経営資源を創出する能力を持っていたと言える。本稿では、この能力を暫定的に「エスニック・マリアージュ(ethnic mariage)」と呼ぶことにする。「エスニック・マリアージュ」とは、複数のエスニシティ(または異文化)を内包する市場にお

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