多国籍企業研究第16号
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https://r.nikkei.com/article/DGKKZO69217570Y1A210C2HE6A00?gift=g2ls5gLwQCqjA0ODE5NjM2NDekNEktLaAeAQ.nMaNUlbE&s=6(アクセス日)2022年12月18日8 アンデルセン・グループは2020年に米国市場から撤退した。 9 海外におけるエスニック市場とメインストリーム市場を合わせて、海外市場全体と呼ぶ。(2)狭い商圏内のエスニック市場から抜け出すための経営資源の組み合わせエスニック・マーケティングを活用した海外市場参入から市場全体攻略へ      ― Grupo Bimbo社による買収した経営資源を活用した米国市場攻略 ― 杉村 亮介22メーカーは海外市場の母国系エスニック市場に参入する。しかしながら、米国市場に参入した日系パンメーカー数社のいずれもが母国系エスニック市場からの市場拡大に失敗し、母国系エスニック市場の需要規模が小さい点ゆえに採算のとれるビジネスにならず、撤退や事業譲渡に追い込まれた8(杉村,2021)。これらの研究から、エスニック・マーケティングを活用した海外市場参入は一定の成果を上げられることが分かっているが、その後の市場拡大をどのように行なっていけばよいかは、依然として課題として残っている。つまり、海外のパン市場において、あるエスニック市場とメインストリーム市場との間に存在する文化の壁が高い点、エスニック市場の需要規模が小さい点、広域のエスニック市場へ流通面でアクセスしにくい点が課題として残っていた。本稿は、エスニック・マーケティングを活用して海外市場に参入を果たした後、これらの課題を克服し、海外市場全体9を攻略する方法があることを明らかにしていく。本節では、分析枠組みを提示する。既存研究の課題は、エスニック・マーケティングにより海外市場に迅速に拠点を築けたとしても、狭い地域で、かつ需要規模が小さいエスニック市場にとどまり続けていては、採算の合うビジネスにはならない点であった。既存の経営資源である「本国での製品ブランド」をより多くのエスニック消費者に販売する必要がある。しかし、米国市場の場合、エスニック市場の消費者は広範囲に分散、もしくは広域にわたり点在するコミュニティにおり、アプローチしづらい。国際市場開発においては、チャネルがマーケティング・ミックスの他の諸要素より基礎的で先行的な役割を果たす(竹田,1985, p.41)ため、真っ先に解決しなければならない問題となる。パンのような賞味期限の短い生鮮食料品の日配事業を行なう場合、消費者に新鮮な商品を届けるために、できる限り消費者に近い場所に流通拠点を構築するなど、充実した流通網が必須である。さらに、海外市場における販路拡大においては、自国市場下とは異なる販売力も必要となる。新しい経営資源として、現地流通網と現地販売力が必要となる。これらの経営資源を手に入れることができれば、既存経営資源の「本国での製品ブランド」と組み合わせて、広域のエスニック市場の消費者にアクセスできるとともに、エスニック市場に深く浸透することができる。また、エスニック市場の需要規模が小さい問題を克服するためには、メインストリーム市場を攻略することも重要な選択肢となるため、その市場攻略に向けた新規獲得経営資源と既存経営資源との組み合わせも必要となる。以上のことから、分析枠組みを次のように提示する(図表1)。

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