多国籍企業研究第16号
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4 エスニシティは狭義の意味で「民族性」と一言で表現されることがあるが、Pires and Stanton(2014, p.10)は広義の意味で「1つ以上の特徴に基づいた人々のグループの共通アイデンティティまたは類似性のことである。」と言う。エスニック・マーケティングの「エスニック(ethnic)」は、「エスニシティ(ethnicity)」の形容詞型。5 さらに言えば、パンは、エスニシティのレベルにとどまらず、各家庭レベル(さらには個人レベル)の嗜6 エスニック・クロスオーバーとは、少数派の民族グループの文化的な経験を反映した製品が、対象となる民族グループ以外の消費者の間で浸透すること(Grier et. al., 2006, p.35)。7 エスニック・エンベデッドネス(Ethnic embeddedness)とは、製品がそのエスニック・グループに関連している度合いのこと(Williams, 1995)。つまり、製品にエスニシティが埋め込まれている度合いのことである。好性が反映されやすい。家庭料理としてのパンである。エスニック・マーケティングを活用した海外市場参入から市場全体攻略へ      ― Grupo Bimbo社による買収した経営資源を活用した米国市場攻略 ― 杉村 亮介21「エスニシティ(ethnicity4)で識別された顧客、クライアント、パートナー、コミュニティ、社会全体にとって価値のあるものを創造し、伝達し、提供し、交換するための活動、一連の制度、およびプロセス」下線を付けた部分の「エスニシティ(ethnicity)で識別された顧客」をターゲットにしている点、さらに「コミュニティ(またはグループ)」という括りで捉える点がエスニック・マーケティングの独自性を表している。他方で、Pires and Stanton(2014, p.44)は、エスニック市場にターゲットを絞ることによって市場規模が小さくなりすぎ、事業として採算がとれなくなることがある点を課題として挙げている。先行研究は、エスニック市場の消費者にターゲットを狭めた上での市場攻略の議論に終始し、課題に対する十分な研究がなされてこなかった。また、Pires and Stanton(2018, p.245)は、エスニック・マーケティング・ミックスの8つの「P」の1つにあたるPlace(コミュニティが発生している場所)の重要性、及びエスニック消費者が集うコミュニティを活用すべきだと主張している。しかし、広域に分散または点在するコミュニティにどのようにアクセスすればいいかについての議論は先行研究でなされてこなかった。海外市場への参入において、エスニック・マーケティングを活用していた事例は、少なからず存在する。杉村(2021)は、ある日系大手パンメーカーの米国市場参入においてエスニック・マーケティングを活用し、日系エスニック市場で一定の足場を構築することに成功したケースを取り上げた。パンは一見するとグローバルな食品である。多くの国々にはパン市場がすでに存在している。しかし、パンにはエスニシティが極めて強く埋め込まれている5。パンのエスニック市場間の文化の壁は高い。なぜなら、パンのような食品を文化の壁を越えて日常的に食べてもらうためには他の料理との調和を考え、エスニシティ由来の「食のライフスタイル」と調和する必要があるからである。さらに、「食のライフスタイル」を変えるには、実際の行動変化を促す必要があり、エスニック・クロスオーバー6のハードルは格段に上がる。各国のパンの違いは、エスニシティ由来の価値観の多様性によるものであり、優劣はない。パンという一見グローバルな商品は、実は極めてローカルな商品である。さらに言えば、エスニック・エンベデッドネス7が強い商品である。自ずと、パン

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