多国籍企業研究第16号
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3 The American marketing Associationの略称。 1 代表的なエスニック・マーケットは、海外市場における母国系市場。例えば、日系企業の視点からは米国2 研究の出発点では、エスニック・マーケティングを活用したことが、(市場参入のみならず)市場拡大期においても最大の論点だと見受けられたが、研究が進むにつれ、買収先の経営資源の活用に論点が移行していく。における日系人市場、メキシコ企業の視点では米国内のメキシコ系住民市場を指す。エスニック・マーケティングを活用した海外市場参入から市場全体攻略へ      ― Grupo Bimbo社による買収した経営資源を活用した米国市場攻略 ― 杉村 亮介20 1.はじめに2.分析視点としてのエスニック・マーケティング及び経営資源の組み合わせ(1)市場参入戦略としてのエスニック・マーケティングhttps://www.ama.org/the-definition-of-marketing-what-is-marketing/ アクセス日(2021/02/21)Pires and Stanton(2014, p.9)は、AMA(2017)のマーケティングの定義3と対比させた形で、エ一般的にエスニック・マーケティングは、エスニック・マーケット(以下、エスニック市場)1の攻略だけに焦点を合わせている。しかしながら、逸脱事例として、メキシコ発の世界最大の製パン企業であるGrupo Bimbo社(以下、ビンボ社)の事例がある。ビンボ社は、エスニック・マーケティングを活用することで、米国市場参入に留まらず、米国市場全体の攻略に成功したように見える2。なぜ、このようなことが可能となったのであろうか。かかる問題意識の下、本稿の目的は、ビンボ社の米国市場への参入と市場での地位確立の経緯をエスニック・マーケティングの視点から明らかにしていくとともに、参入先の市場での市場のさらなる拡大には、既存の経営資源と新たに獲得した経営資源をうまく組み合わせる能力が必要になることを明らかにしていく。この課題を明らかにするために、次のような順番で議論していく。第1に、本稿での分析の視点である、エスニック・マーケティングの視点を説明する。エスニック・マーケティングの観点では、海外市場への参入後、進出先国の狭い地域のエスニック市場にとどまってしまい、エスニック市場の需要規模が小さい点、及び広域のエスニック市場に流通面でアクセスしにくい点が問題となることを明らかにしていく。これらの課題を克服するためには、新しく獲得した経営資源と既存の経営資源をうまく組み合わせる必要があることを明らかにしていく。第2に、ビンボ社の米国市場への進出の経緯について説明する。第3に、ビンボ社の米国エスニック市場からの市場拡大に焦点を当て、既存の経営資源と新たに獲得した経営資源を上手く組み合わせ、さらに相乗効果を生み出す能力を明らかにしていく。そして、第4に、本稿での到達点を示した上で、今後の課題を示して結びとする。本稿の研究方法は単一事例研究である。上述のように、ビンボ社の米国市場全体の攻略は、エスニック・マーケティングの視点から考えると逸脱事例に位置づけられる。さらに、時間的経過とともに変化する状況(動き)を捉えようとしている。したがって、単一事例研究としての妥当性(Yin, 2018)が担保されている。スニック・マーケティングを次のように定義することが適当であると結論づけた。

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