多国籍企業研究14・15合併号
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1 農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」2 2019年6月に当時の安倍総理を議長に策定された「成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ・令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」を環境変化に対応させて施策が見直された。21.日本の農林水産物貿易の現状と輸出政策昨年度の第13回多国籍企業学会全国大会の統一論題として取り上げられた「食のグローバル化と多国籍企業」は、今後の国内産の農林水産物の海外への輸出拡大に向けて、大変に重要なテーマと考えられる。我が国の農林水産物の多くは、従来は地産地消を基本として、収穫された地域およびその周辺地域において、主に消費されてきた。今後人口減少により国内市場が縮小していくことが避けられない中で、アジアなどの海外市場を新たに開拓していくためには、近隣諸国の生産物との間の競争を意識しながら質の高い商品を育成し、より本格的な生産と販売強化の取り組みを進めていくことが必要になる。幸いにも、輸送手段の進化により、適切なサプライチェーンを構築することによって、グローバルな取引機会の拡大に繋がることが期待できる。また海外での日本食の人気も、追い風になると考えられる。一方で、本論文で取り上げた事例からも、海外に輸出先や適切なパートナーを開拓することは重要であるものの、他国からも同様の商品がより低価格で輸出される厳しい競争環境の中で、単なる輸出の取り組みだけでは、現地での持続的な販売と拡大は容易ではない。顧客のマーケティング、小売店や飲食点を含む広範囲な販売先の開拓、現地でのコールド・チェーンの管理などを行う現地子会社の設立などの直接投資も、視野に入れる必要があると考える。本研究では、日本からの野菜と果物を中心とした「農作物」の輸出に焦点を当てて、その現状をサプライチェーンの視点から把握し、今後の輸出拡大に向けた課題を明らかにしたい。特に国内でも農作物輸出が活発な九州での取り組みを事例としながら、輸出促進の障害や効果的な手法について考える。日本の農林水産物貿易については、2000年台から市場を海外に確保することが、政策的に進められてきており、特に2011年の東日本大震災以降に、農作物の輸出量が着実に伸長している。農林水産省では、2004年に輸出促進室を設置して以来、農林水産物に関する戦略としてまた政府の成長戦略の一環として、積極的な輸出戦略がとられてきた。2004年には総額で約3,500億円であった農林水産物の輸出額は、しばらくの間は大きく増加せず、またその後、東日本大震災とその後の放射能の影響などにより輸出の落ち込みが見られた。しかしその後2012年の輸出額の4,497億円が、2020年には9,267億円へと、近年では急激に成長を見せている1。2013年の「日本再興戦略」で設定された2020年の輸出目標額の1兆円は未達であったものの、2020年7月の閣議決定では、「成長戦略フォローアップ」2として着実な伸長を期待しながら、輸出額の目標を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円に再設定しており、ますます積極的な取り組みが求められている。実際に2021年度には、前年比25.6%増の1兆2,385億円と、初めて日本からの農林水産物輸出が1兆円を超えた。

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