多国籍企業研究14・15合併号
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12終わりに点では国内向けと海外向けでは、明らかに国内向けの出荷から、より大きな売り上げが期待できることから、国内向けの出荷が重視されていることは否定できないが、今後の市場動向を見極めた取り組みが考えられる。海外で好まれる商品と国内向けの違い、農薬などの使用、現地の店頭に並ぶまでの時間を考えた収穫のタイミング、海外で顧客に訴求する包装の形状やカートンの表示、必要量の確保のための市場からの調達など、輸出と海外の購買者を意識した対応が必要になっている。第二に、効率的な輸出に向けては、組織的な対応がさらに重要となる。各地のJAや品目ごとの市場開拓では、初期投資や知見の蓄積に要するコストや時間が大きな負担になると共に、限られた品目と数量のために、輸入業者との交渉力は低くならざるを得ない。また同様に、単一商品や小ロットの出荷では、輸送においての規模の経済性が期待できないことから、運賃や保管費用を含めた全体の輸送費用を低下させるためには、コンテナ単位での効率的な積載(バンニング)、複数の品目のコンソリデーションや大ロットでの輸送が考えられる。これらを可能にするためには、運営組織の集約など組織的な対応が求められる。上述した九州の事例である九州農作物通商株式会社や九州農水産物直販株式会社は、まさに多くの関係する企業や県のJA組織と域内各地のJAによる共同の取り組みであり、開拓した市場へのチャネルを効果的に活用しながら、多様な品目を販売しているといえる。第三には、現地での適切なパートナーの選定及び直接投資による販路の拡大が挙げられる。前者については、前述のような信頼できる輸出相手先を持つことの重要性は言うに及ばず、安定的な現地のパートナーを選定し確保することが、農作物という長期的な取り組みが必要な商材には、不可欠と考えられる。後者の直接投資に関しては、現地でのコールドチェーンの要となる輸入拠点などの物流インフラストラクチャーの整備、ショールームとしてのアンテナショップの開設や、昨今の日本食レストランのアジア展開に対応した主要都市での食材の提供が考えられる。ドンキホーテを展開する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(2019年に社名変更)が、アジア統括会社Pan Pacific Retail Management (ASIA) PTE., Ltd.をシンガポールに設立し、「ジャパンブランド・スペシャリティストア」のコンセプトで、シンガポール、タイ、香港で日本製品の販売を開始している。本格的な農作物の輸出には、B to C とB to Bの両方を視野に入れた現地での販売体制の整備も、今後は必要になってくるとも考えられる。本研究では、元来地産地消を基本として、収穫された地域および周辺地域で主に消費されてきた農作物に関して、アジアをはじめとする海外市場で戦略的に販売することについての課題について考察した。農作物を輸出商品として考えるためには、いくつかの大きな意識の転換が必要であると思われる。それは国内市場向けとは切り離して、海外向け商品のブランド化が図られ、海外での多くの規

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