多国籍企業研究14・15合併号
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10 日本貿易振興機構 農林水産・食品部(2020)「JETRO品目別レポート(いちご)」表5 福岡県産あまおうの香港と福岡市内での店頭販売価格香港市内−最安値:55HKD(≒764円)−最高値:168HKD(≒2,335円)    −平均値:90-110HKD/パック福岡市内−最安値:580円(直売所)  −最高値:1,500円(デパート)   ※香港での販売日を考慮し、同時期の2018年1月25-26日に実施。    (1HKD=13.9円)(出典:九州経済産業局「輸出向け農産物開発・ブランド化に向けたアジアでの実態調査事業報告書」2018年3月)9この店頭販売価格の調査によると、福岡市内と香港市内のいずれにおいても、直売所やスーパーにおける販売と、富裕層などを対象としてデパートなどで販売される商品の価格には、1パックあたりで3倍以上の開きがある。一方で福岡市内と香港市内の価格差を見ると、香港で販売されるあまおうが、4割から5割増程度であり、必ずしも輸出に伴うコストと煩雑な作業に見合った価格設定がされていないことが発見事実として挙げられる。海外と国内の商品の価格差が、それほど大きくない理由としては、買い手の交渉力の大きさや以下にも記述の通り、米国、韓国、中国などの諸国から輸入される同種の商品との競合関係が影響していると考えられる。日本貿易振興機構の調査10によれば、2019年に香港に全世界から輸入された6,618トンのいちごのうち、日本からの輸入の921トンは、米国と韓国に次いで3位であり、その数量ベースでのシェアは13.9パーセントに過ぎない。一方輸入額でみると、日本からの輸入額の1,773万香港ドルは首位であり、全体の5,937万香港ドルの輸入額の29.2パーセントを占めていることから、これでも日本産のいちごの価格は、他国からの輸入品と比較して格段に高いことがわかる。九州農作物通商株式会社では、今年の1月から台湾向けのあまおうのトレーサビリティの実証実験を行なっており、出荷日から店舗への配送状況の把握や産地情報の提供などを進めている。航空便を利用して出荷から最短で4日、船便で15日程度であり、店頭に並ぶあまおうのリードタイムの短縮化にも繋がることが期待されている。しかし、産地から市場までのサプライチェーンに要する時間の長さを考えると、国内での販売に比べて、現地での商品の廃棄率も低くないことが予想されることから、全体の利益率においても、国内販売を大きく上回ることはないと考えられる。また、たとえ輸出に関わる多くの課題を克服できたとしても、競争もますます激化しており、アジアの富裕層を主たる対象とした輸出拡大だけでは、必ずしも今後の市場拡大は容易ではない。これはあまおうにのみ見られる状況ではなく、その他の多くの農作物輸出にも関わる可能性が高い。

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