多国籍企業研究13号
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2日本の大学で学ぶ外国人留学生の「就職問題」に関する研究      ― 大学のキャリアセンターへのアンケート調査に基づいて ― 古沢 昌之1.はじめにわが国政府が2008年に掲げた「留学生30万人計画」は、2018年に「留学生の総数」が約29.9万人となったことから、数字の上ではその目標がほぼ達成されたと言える。企業の海外展開が大企業から中小企業へ、製造業からサービス業、先進国から新興国へと広がりを見せる一方で、訪日外国人の増加等インバウンド市場も拡大する中、高度外国人材の卵としての留学生は、わが国企業にとって貴重な人的資源であると考えられよう(労働政策研究・研修機構,2013;アジア太平洋研究所,2015;大阪府商工労働部・大阪経済大学中小企業・経営研究所,2018)。しかし、上記計画の出口戦略ともいうべき外国人留学生の「就職」を巡る状況は、必ずしも良好とは言えず、様々な問題点が指摘されている。例えば、日本人学生に比して「低い就職率」や「入社後の低い定着率」、さらには留学生と企業の「意識のギャップ」などである。そこで、本論文では、日本の大学・大学院で学ぶ外国人留学生の「就職問題」について、各大学のキャリアセンター(就職活動支援部署)へのアンケート調査に基づき考察する。具体的には、関連の先行研究をレビューした後、アンケートを通して外国人留学生の「就職状況」、留学生の就職に向けた大学としての「支援策」、就職に「成功」する留学生の「特性」、さらには留学生の就職を巡る「問題点」などを明らかにするとともに、調査結果からのインプリケーションを抽出したい。当該テーマに関わるこれまでの研究は、留学生本人または企業への調査に依拠した論考が中心で、大学の視点から定量的に問題にアプローチしたものは少ない1。本研究は、この点においても、学術・実務両面への貢献が果たせるものと考える。2.先行研究のレビュー(1)わが国における留学生の「受け入れ」を巡る状況わが国政府は2008年に「日本を世界により開かれた国とし、ヒト・モノ・カネ・情報の流れを拡大するグローバル戦略を展開する一環」として、「留学生30万人計画」を策定した2。その目標は「2020年を目途に30万人の留学生受け入れを目指す」というものであったが、2018年時点で留学生総数が298,980人に達したことから、ほぼクリアしたと言えよう。ここでは、まず本論文の議論のベースとして、わが国における留学生の「受け入れ状況」について整理しておきたい。1 大学に対する定量的な調査は、篠崎(2015)が用いた厚生労働省「平成25年度大学における留学生の就職支援の取り組みに関する調査」などがあるが、単純集計レベルの分析に留まっている。なお、同調査の詳細は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2014)を参照いただきたい。その他の大学への調査は、労働政策研究・研修機構(2013)などヒアリングに基づくものが中心である。2 文部科学省「『留学生30万人計画』骨子の策定について(2008年7月29日)」(https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1420758.htm:2020年1月17日最終アクセス)。

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