40日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文製造業(繊維製品、化学、鉄鋼、非鉄金属)と部品製造業(機械、電気機器、輸送用機器、精密機器)は、Global Value Chain (Gereffi, Humphrey & Sturgeon, 2005)を、現地企業のケイパビリティを活用し、低コストで拡大する目的で、マイノリティ出資を行ってきた。無論、外資規制への対応のためにマイノリティ出資とした事例も多数ある。その点、日系企業では、Erramilli (1991)の理論の通り、経験の蓄積に伴い、新興国における外資規制緩和と相俟ってマイノリティ出資先をマジョリティ化する動きもみられる。東レは1960年代から化学繊維事業を欧米・アジアで展開し、その後も樹脂、フィルム、炭素繊維事業を現地企業へのマイノリティ出資によって展開してきたが、段階的に出資比率を引き上げ、マジョリティ化を進めている(東レ,2018)。また、現地市場の成熟度や流通環境に応じて代理店契約から合弁、子会社化へと切り替えている企業もある(清水他,2014)。いくつかの実証研究はマジョリティ化に業績改善効果があること報告している。Chang, Chung & Moon (2013)は、中国の合弁企業にマイノリティ出資をした外資系企業がマジョリティ化した事例では総じて業績が改善したとする。日系企業の海外拠点を対象としたDhanaraj & Beamish (2004)およびDelios & Beamish (2004)は、自社の出資比率が低い合弁会社ほど撤退する可能性が高く、マジョリティ出資会社の方がマイノリティ出資会社よりも事業継続性が高いと指摘した。もっとも、マジョリティ化は、追加出資に伴う資本や交渉のコストを要する(Pearce, 1997)。取引コスト理論に基づくと、マイノリティ出資の維持による費用便益がマジョリティ化による費用便益を上回る限り、マイノリティ出資を維持することが合理的な選択となる。「弱いコントロールの高いパフォーマンス」を示す企業は、敢えてコントロールを強化しない戦略オプションをとっている可能性がある。高業績を考慮すれば、小島(1992)のいう内部化と外部化の最適な組み合わせを実現している企業であるとも考えられる。6.結論本研究では、日系企業の海外事業とコントロール・メカニズムについて、内部化理論を手掛かりとし、公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて考察を行った。先行研究から、公的なコントロールが強い企業の方が弱い企業よりも業績が高いと推論した。しかし、本研究の結果は、仮説とは異なる「完全なコントロールの次善パフォーマンス」および「弱いコントロールの高パフォーマンス」をとる企業が存在することを示した。前者は公的なコントロールに対する意思の強さ故にコントロールに関して非合理的な選択をし、後者は諸条件を考慮した合理的な選択の結果、弱いコントロールをとっている可能性がある。本研究の貢献は、内部化理論を糸口として、開示情報をもとに海外事業を営む日系企業のグループガバナンスの実態を明らかにし、完全なコントロールの次善パフォーマンス」および「弱いコントロールの高パフォーマンス」という内部化理論を考慮すると特異な現象を検出したことである。安室(2009)は、ICTが普及し、戦略的提携が増えた現代における、内部化理論の有効性の限界を
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