多国籍企業研究13号
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39日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文(3)弱いコントロールの高いパフォーマンスに関する考察本項では図表3・図表4でみられた、マジョリティ出資会社の割合が55~59%の企業(弱いコントロールの企業)が高業績を達成している現象について考察を行う。海外事業を営む日系企業は「強いコントロールに対する意思」をもち、マジョリティ出資志向を強めているが、マイノリティ出資会社を多数擁する企業もある。図表8にマジョリティ出資会社の割合が50~64%の海外長期操業企業20社を示した。累積連結売上高経常利益率、20年間平均連結売上高成長率および平均海外売上高成長率が全てプラスの企業は13社あった。うち6社は1992年度以降、65%未満の状態が続いている。企業がマイノリティ出資を行う目的として以下が考えられる。第一に、事業負担やリスクの軽減である。例えば明治海運などのインフラ企業は発電所や船舶等の資産保有会社への出資において、財務負担を軽減するために他社との共同投資とし、マイノリティ出資に留めている。第二に、取引先との関係構築である。卸売企業(商社)は国内外の仕入先や販売先との関係強化のためにマイノリティ出資を活用している。第三に、前述の通り、現地企業のケイパビリティの吸収がある。素材図表8 2012年度から2016年度までのマジョリティ出資会社の割合が50~64%の企業注)マジョリティ出資会社の割合が55~59%の企業をハイライトした。(出所)SPEEDAをもとに筆者作成。企業名称東証33業種分類設立年マジョリティ出資会社の割合連結子会社数連結売上高(百万円)海外売上高比率累積連結売上高経常利益率20年間平均連結売上高成長率20年間平均海外売上高成長率(2012年度から2016年度までの5ヵ年平均)東レ繊維製品192662.2%155.61,914,33850.9%6.5%3.6%4.5%戸田工業化学193362.0%17.630,75441.4%-1.9%2.3%1.9%日本触媒化学194156.2%14.6312,72549.0%7.6%4.5%7.7%高砂香料工業化学192052.7%19.4132,01749.8%4.7%1.8%6.3%T&K TOKA化学194952.3%6.849,80933.0%7.7%3.5%4.8%伊勢化学工業化学194850.0%1.015,88234.6%16.0%2.7%4.2%大和工業鉄鋼194458.0%8.0166,62470.3%12.5%8.3%19.6%東京特殊電線非鉄金属194059.7%7.417,70940.8%9.7%-5.4%-1.8%月島機械機械191762.9%8.874,46818.9%6.7%0.3%3.0%ダイジェット工業機械195060.0%1.29,46141.6%4.6%0.1%5.2%イーグル工業機械196456.0%48.8129,93347.4%10.3%7.3%14.5%岡野バルブ製造機械193654.5%1.27,65419.5%5.4%-2.8%1.4%いすゞ自動車輸送用機器193756.9%78.81,835,20863.1%9.3%1.0%1.9%理研計器精密機器193961.1%4.421,61922.6%17.2%2.1%5.0%明治海運海運業191158.0%17.431,17043.2%15.4%10.4%13.1%三菱商事卸売業195062.8%544.09,772,63733.8%4.0%-2.8%-3.5%三井物産卸売業194761.6%272.49,202,73826.3%3.9%-3.1%-5.6%中央自動車工業卸売業194658.8%2.016,43548.9%16.9%-3.4%-1.5%岩谷産業卸売業194550.0%107.6651,41510.7%3.0%0.6%0.3%伊藤忠商事卸売業194964.1%213.510,353,73716.2%3.7%-2.4%-6.6%

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