多国籍企業研究13号
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38日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文資に切り替えようとする(Blodgett, 1992; Chang, Chung & Moon, 2013)。本研究のサンプルでは、2012年度から2016年度までの間の、マジョリティ出資会社の割合が100%であった企業143社のうち、1992年度から2016年度まで一貫して100%であった「静的」な企業は42社であった。また、22社は一部のデータ欠損年度以外は一貫して100%であった。これに対して、一時的に100%から低下したことがある「動的」な企業は19社であった。残る60社は対象期間中に100%に引き上げた(図表7)。多国籍企業の成長プロセスを考慮すると、動的なコントロール・メカニズムの利用が適切である。しかし、本研究のサンプルでは42社が完全な公的なコントロールを維持し続けていた。つまり、マジョリティ出資会社の割合が100%の企業群には、成長プロセスに即した公的なコントロールの意思決定を行っていない可能性のある企業が含まれている。これが理由となり、完全なコントロールが次善パフォーマンスを導いていると考えられる。企業が公的なコントロール・メカニズムの静的利用に固執する理由は複数考えられる。第一に、企業が、理論的にはマイノリティ出資であるべきところでマジョリティ出資を選択する非合理的選択を行っている可能性である(Shaver, 1998; Brouthers & Hennart, 2007)。第二に、国際事業に有為な組織外ネットワークを利用せず、「社外に閉じている」可能性である(Athanassiou & Nigh, 1999: 2002; Daily, Certo & Dalton, 2000)。静的利用を行えば、合弁や資本提携にかかる投資コストを省くことができ、相手がいない分、コミュニケーション・コストも軽減できる。その反面、静的利用に拘る企業は、収益性・成長性の高い市場に効率的に参入し、現地企業のノウハウを独自での進出に比べて低コストで吸収する潜在的機会を逸している可能性がある。戦略的熟慮を重ね、資本関係を伴わない提携やOEMを活用しつ静的利用に至っている場合はともかく、消極的に静的利用を行うことは業績を押し下げるおそれがある。図表7 「静的利用」および「動的利用」パターンの企業の数企業数(社数)総数5002012年度から2016年度のマジョリティ出資会社の割合が100%であった企業143うち1992年度から1996年度まで、および2012年度から2016年度までのマジョリティ出資会社の割合が100%の企業(①+②+③)83①1992年度から2016年度の全ての年度でマジョリティ出資会社の割合が一貫して100%の企業42②一部の年度においてデータ欠損があるが、欠損年度以外は一貫して100%の企業22③マジョリティ出資会社の割合が一時的に低下した企業19(出所)SPEEDAをもとに筆者作成。

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