多国籍企業研究13号
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37日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文Erramilliによれば、国際事業経験が少ない、または豊富な企業ほど、海外進出時に完全子会社による進出を選択し、海外拠点に対する(公的)コントロールの最大化を志向する。国際事業経験が少ない企業は国際事業の不確実性の低減を完全なコントロールに求める。また、国際事業経験が少ない企業はエスノセントリックであり、海外拠点に本国本社の経営手法を持ち込むためにも完全子会社化を望む傾向がある。企業は成長と収益を求めて海外市場に進出する。その際、自社に海外経験が少なく、また進出先が高リスクであることもある。この過程で企業は現地企業と共同投資を行うことがある。その目的は現地企業のケイパビリティの吸収にあり(Hamel, Doz & Prahalad, 1989)、相手との関係によりマイノリティ出資を受容する。これにより、企業全体の海外拠点に対するコントロールに対する意思は一時的に弱まることとなる。その後、国際事業経験が豊富になり、自社のケイパビリティが高まると、現地企業のケイパビリティは重要でなくなるため、企業は不確実性を低減させるために再び完全なコントロールを求めるようになる。このような経験の量に応じた動的な成長プロセスを考慮すると、多国籍企業は常に強いコントロールを維持するのではなく、一時的には弱いコントロールを受容して高リスク国・地域での操業の経験を手に入れながら拡大すると考えられる。経験が蓄積されると再び強いコントロールの状態へ回帰する、という周期的なプロセスが存在すると考えられる。つまり、コントロールの強弱の選択は、多国籍企業の成長プロセスと経験に応じて、動的なものとなるのが適切であると考えられる。(2)完全なコントロールの次善のパフォーマンスに関する考察本項では図表3・図表4でみられた、マジョリティ出資会社の割合が100%の企業(完全なコントロールの企業)の業績がマジョリティ出資会社の割合が95%の企業よりも悪い現象(次善のパフォーマンス)について考察を行う。前述の通り、多国籍企業は成長プロセスと経験に応じて、コントロールの強弱の選択を周期的に繰り返すことが適切であると考えられる。この点を念頭にマジョリティ出資会社の割合が100%となるパターンを精査すると、コントロール・メカニズムの管理ポリシーが「静的」である企業群と「動的」である企業群があることがわかった。「静的」な企業群は、マジョリティ出資会社の割合を一貫して100%のままとしている。自社のコントロールを最大化する意思をもち、コントロール力が他の株主に劣後するマイノリティ出資を避けていると推定される。一方、「動的」な企業群は、マジョリティ出資を志向しながらも、マイノリティ出資を行うことにより、100%でなくなることがある。マイノリティ出資を行うのは、現地企業のケイパビリティの吸収が目的であることもあるが、進出国・地域の外資規制によりマイノリティ出資を選択せざるを得ないこともある(Humphrey & Memedovic, 2003)。もっとも、企業は、マイノリティ出資による事業継続にメリットがなくなると出資比率引上げまたは出資持分の売却によって合弁契約の見直しを図り(Gomes-Casseres, 1987)、外資規制が緩和されればマジョリティ出

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