多国籍企業研究13号
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36日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文5.考察マジョリティ出資会社の割合が、約70%から95%に向かって高くなるにつれて収益性・成長性が高くなる現象は、先行研究から導出された理論と整合する。しかしながら、マジョリティ出資会社の割合が100%の企業群の収益性・成長性が95~99%の企業群よりも低い現象、およびマジョリティ出資会社の割合が55~59%の企業群の収益性・成長性が比較的高い現象は先行研究から導出された理論と整合しない。マジョリティ出資会社の割合と業績との関係を考察するに当たっては、マジョリティ出資の強弱を選択する意思決定メカニズムを考慮する必要がある。内部資源と外部環境の観点から妥当な意思決定であれば、高業績をもたらすと考えられるためである。本節では、マジョリティ出資会社の割合が100%の企業群の業績が95~99%の企業群よりも低い現象(以下、「完全なコントロールの次善パフォーマンス」)、およびマジョリティ出資会社の割合が55~59%の企業群の業績が比較的高い現象(以下、「弱いコントロールの高いパフォーマンス」)を進出形態の意思決定に関する先行研究をもとに考察を試みる。(1)「コントロールに対する意思」と公的なコントロールの強弱の選択Erramilli(1991)は、米国サービス業463社を対象とした実証研究により、「市場参入時におけるコントロールへの意思(desire)」は「国際事業経験の多寡」と「U字型」の関係にあるとした(図表6)。Erramillは、「U字型」は理論的には製造業にもあてはまり、特に意思を実行する十分なリソースを有する大手製造業において観察されるとした。図表6 企業のコントロールへの意思に対する経験の影響点から妥当な意思決定であれば、高業績をもたらすと考えられるためである。 本節では、マジョリティ出資会社の割合が100%の企業群の業績が95~99%の企業群よりも低い現象(以下、「完全なコントロールの次善パフォーマンス」)、およびマジョリティ出資会社の割合が55~59%の企業群の業績が比較的高い現象(以下、「弱いコントロールの高いパフォーマンス」)を進出形態の意思決定に関する先行研究をもとに考察を試みる。 (1)「コントロールに対する意思」と公的なコントロールの強弱の選択 Erramilli(1991)は、米国サービス業463社を対象とした実証研究により、「市場参入時におけるコントロールへの意思(desire)」は「国際事業経験の多寡」と「U字型」の関係にあるとした(図6)。Erramillは、「U字型」は理論的には製造業にもあてはまり、特に意思を実行する十分なリソースを有する大手製造業において観察されるとした。 図6 企業のコントロールへの意思に対する経験の影響 (出所)Erramilli(1991)Figure 1に筆者加筆 Erramilliによれば、国際事業経験が少ない、または豊富な企業ほど、海外進出時に完全事業経験少ない豊富中程度コントロールへの意思弱い強い経験が少ないときはコントロールへの意思は強い経験豊富になると意思は再び強まる事業拡張段階では、経験不足を他社との提携で補うため、意思は弱まる(出所)Erramilli(1991)Figure 1に筆者加筆

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