32日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文ロール・メカニズムは有用なツールである。多国籍企業にとって、公的なコントロールと業績の関係を明らかにすることは重要な意味がある。一方、公的なコントロールは、法的権利を基盤としており、出資規制等によって制限される。特に新興国では外資企業の出資が規制される傾向がある(Humphrey & Memedovic, 2003)。多国籍企業が、コントロールを公的なコントロール・メカニズムのみに依存すると、多国籍企業は、海外展開の機会を失ってしまうおそれがある。また、公的なコントロールと組織的なコントロールは階層構造を持っているが、両者の間に交互作用が存在する可能性もある。現地企業との合弁や、大手取引先企業との随伴進出時の合弁などでは、多国籍企業は出資マジョリティを得ることが難しい反面、現地市場へのアクセスや安定した取引といった利益を得ることができる。このため、少なくとも、公的なコントロールの強化が高業績につながるとは一概には言えない可能性がある。この点に着目し、山内・立本(2018)は、海外事業を営む日系電機・機械・精密企業106社を対象としてコントロールの実態と業績との関係を検証した。検証の結果、ほとんどの企業が公的なコントロールを強化する方向にあることが確認されたが、公的なコントロールの強弱と業績との間に一定の傾向はみられなかった。検証対象を全業種554社に拡大した山内(2018)においても、企業は公的なコントロールを強化していたが、その強弱と業績との間に一定の傾向はみられなかった。ただし、これらの先行研究は、コントロール・メカニズムの一般的な傾向を扱っており、業績との関係構造について詳細な分析は行っていない。このため、本研究では、公的なコントロールと業績の関係に焦点を当て、内部化の度合いと業績との関係を検証する。4.分析(1)検証のための指標ⅰ.公的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合いの指標公的なコントロールを強くしたい企業は拠点の子会社化を志向する。その結果、グループ会社数に占めるマジョリティ出資会社数の割合が高くなる。マジョリティ出資割合の高低に企業の公的なコントロールの強弱が表れると考えられる(Stopford & Wells, 1972)。本研究では、公的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合いを示す指標として、「グループ会社数に占めるマジョリティ出資会社数の割合」(以下、「マジョリティ出資会社の割合」)を採用した。その計算式は[1]の通りである。本研究では、「グループ会社」は、親会社・本国本社と事業上の関係が恒常的に存在する会社を指す。「マジョリティ出資会社」は、グループ会社のうち親会社・本国本社が株式の過半数を保有する会社を指す。「マジョリティ出資会社」は、わが国の会社法および会計基準において「子会社」として分類さの強弱と業績との間に一定の傾向はみられなかった。検証対象を全業種554社に拡大した山内(2018)においても、企業は公的なコントロールを強化していたが、その強弱と業績との間に一定の傾向はみられなかった。 ただし、これらの先行研究は、コントロール・メカニズムの一般的な傾向を扱っており、業績との関係構造について詳細な分析は行っていない。このため、本研究では、公的なコントロールと業績の関係に焦点を当て、内部化の度合いと業績との関係を検証する。 4.分析 (1)検証のための指標 i. 公的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合いの指標 公的なコントロールを強くしたい企業は拠点の子会社化を志向する。その結果、グループ会社数に占めるマジョリティ出資会社数の割合が高くなる。マジョリティ出資割合の高低に企業の公的なコントロールの強弱が表れると考えられる(Stopford & Wells, 1972)。 本研究では、公的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合いを示す指標として、「グループ会社数に占めるマジョリティ出資会社数の割合」(以下、「マジョリティ出資会社の割合」)を採用した。その計算式は[1]の通りである。本研究では、「グループ会社」は、親会社・本国本社と事業上の関係が恒常的に存在する会社を指す。「マジョリティ出資会社」は、グループ会社のうち親会社・本国本社が株式の過半数を保有する会社を指す。 マジョリティ出資会社の割合 = マジョリティ出資会社数グループ会社数 [1] 「マジョリティ出資会社」は、わが国の会社法および会計基準において「子会社」として分類される。企業はそのうち連結決算に含まれる「連結子会社」の数を有価証券報告書において開示している。また、「グループ会社」は連結子会社以外の会社、すなわち「非連結子会社」および「関連会社」を含む。両者はわが国会計計算規則により「持分法適用会社」と[1]
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