30日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文山内,2014)。Ouchi (1979; 1980)は、組織的なコントロール・メカニズムを市場型、官僚制度型、クラン型の三つに分類した。市場型は、当事者の相互の経済的利益(互恵の規準)の上に成り立つコントロール・メカニズムである。官僚制度型は、互恵の規準に立脚しながら、権威をもつ主体が規則を定め、客体に規則の順守を強制するコントロール・メカニズムである。クラン型は、市場型・官僚制度型のコントロール・メカニズムを包摂しながら、主体が価値観や信条、知識の共有により組織統合を図り、社会化(socialization)によって客体を取り込むコントロール・メカニズムである。前述の手段に当てはめると、市場型は①、官僚制度型は①・②、クラン型は①・②・③を利用することとなる。組織的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合いは、前述の手段をより多く利用するほど高くなる。Ouchi(1979; 1980)の分類ではクラン型が最も高くなる。しかしながら、Ouchiは、三つのメカニズムは組織を取り巻く状況によりその有効性が異なるとする。例えば、官僚制度型のコントロールは、不確実性が低い環境では安定的な成果を期待できるが、不確実性が高く、機動力が求められる環境には馴染まない(Wilkins & Ouchi, 1983)。多国籍企業では、社会化プロセスを伴うクラン型のコントロールが持続的な高業績に資する可能性がある(Nohria & Ghoshal, 1994)。社会化は従業員と組織の適合度を高め、パフォーマンスを向上させる(Feldman, 1976; Chatman, Caldwell, O’Reilly & Doerr, 2014)。社会化の過程で組織内に形成される社会関係資本は組織の有効性を高め、内部取引のコストを削減する(Leana & van Buren Ⅲ, 1999)。多国籍企業における社会化活動と社会関係資本の形成は組織により優れた業績をもたらす図表2 四つの組織形態と公的なコントロールの強さ6 Kim, 1988; Zhao, Luo & Suh, 2004)。企業は、内部化による利益と外部化による利益を比較衡量した結果、外部化に近いバランス型パートナーシップやマイノリティパートナーシップを選択することもある。 図2 四つの組織形態と公的なコントロールの強さ 注)本社による支配や影響力行使の状況により、出資比率が50%以下の場合も子会社とみなされ、20%未満の場合も関連会社とみなされることがある。 (出所)Gatignon & Anderson(1988)をもとに筆者作成。 ii. 組織的なコントロール・メカニズムと業績 組織的なコントロール・メカニズムは、親会社・本社と海外拠点との間で共有される、投資契約以外の手段を基盤とする。具体例として、①親会社・本社が海外拠点に提供するビジネスモデルや技術・部品、人材、金融、ITシステム等の内部資源、②親会社・本社が海外拠点に課す内部統制や業績報告・評価の手続き、③社員の行動規範となる文化・価値観等がある(清水・三橋・永妻・山内, 2014)。 Ouchi(1979; 1980)は、組織的なコントロール・メカニズムを市場型、官僚制度型、クラン型の三つに分類した。市場型は、当事者の相互の経済的利益(互恵の規準)の上に成り立つコントロール・メカニズムである。官僚制度型は、互恵の規準に立脚しながら、権威をもつ主体が規則を定め、客体に規則の順守を強制するコントロール・メカニズムである。クラン型は、市場型・官僚制度型のコントロール・メカニズムを包摂しながら、主体が価値観や信条、知識の共有により組織統合を図り、社会化(socialization)によって客体を取り込むコントロール・メカニズムである。前述の手段に当てはめると、市場型は①、官僚制度型公的なコントロールの強さ強弱完全子会社•本社が対象会社株式の100%を保有する支配的パートナーシップ•本社の出資比率が他の大株主より高く、支配的な立場にあるGatignon& Andersonの分類概要子会社(50%超*)わが国会社法・会計基準上の呼称バランス型パートナーシップ•本社と他の最大株主の出資比率が同等であり、対等な立場にあるマイノリティパートナーシップ•本社の出資比率が他の最大株主より低い関連会社(20%以上50%以下*)-(20%未満)注)本社による支配や影響力行使の状況により、出資比率が50%以下の場合も子会社とみなされ、20%未満の場合も関連会社とみなされることがある。(出所)Gatignon & Anderson(1988)をもとに筆者作成。
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