多国籍企業研究13号
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29日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文ⅰ.公的なコントロール・メカニズムと業績公的なコントロール・メカニズムは、主に、親会社・本社による海外拠点に対する投資契約を基盤とする。親会社・本社は投資契約のもとで所有者または株主としての法的権利を確保し、行使する。株主がもつ法的権利の主なものとしては、経営に参画するための共益権(単独株主権、少数株主権)と配当等の収益を獲得する自益権が挙げられる。公的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合い、すなわちコントロール力の強弱は、拠点の形態により異なる。駐在員事務所および支店の場合、法的には本社組織の一部であり、本社によって完全に内部化されている。法人の場合、本社はその出資比率が高いほど株主としての法的権利をより多く確保し、行使でき、内部化の度合いも高くなる。Gatignon & Anderson (1988)は、多国籍企業による海外事業法人の形態を出資比率に応じて四つに分類し、出資比率が高くなるほどコントロールが強くなるとした(図表2)。しかしながら、企業は、常にコントロールの強い形態を選択するわけではない(Hill & Kim, 1988; Zhao, Luo & Suh, 2004)。企業は、内部化による利益と外部化による利益を比較衡量した結果、外部化に近いバランス型パートナーシップやマイノリティパートナーシップを選択することもある。ⅱ.組織的なコントロール・メカニズムと業績組織的なコントロール・メカニズムは、親会社・本社と海外拠点との間で共有される、投資契約以外の手段を基盤とする。具体例として、①親会社・本社が海外拠点に提供するビジネスモデルや技術・部品、人材、金融、ITシステム等の内部資源、②親会社・本社が海外拠点に課す内部統制や業績報告・評価の手続き、③社員の行動規範となる文化・価値観等がある(清水・三橋・永妻・図表1 公的なコントロール・メカニズムと組織的なコントロール・メカニズム5 ル・メカニズムを、Ouchi(1979; 1980)を援用し、「組織的なコントロール・メカニズム」として分類した(図1)。多国籍企業は海外事業運営においてコントロール・メカニズムを複合的に利用する(Doz & Prahalad, 1981: 1984; 浅川, 2003) 。 図1 公的なコントロール・メカニズムと組織的なコントロール・メカニズム (出所)山内利夫・立本博文(2018) i. 公的なコントロール・メカニズムと業績 公的なコントロール・メカニズムは、主に、親会社・本社による海外拠点に対する投資契約を基盤とする。親会社・本社は投資契約のもとで所有者または株主としての法的権利を確保し、行使する。株主がもつ法的権利の主なものとしては、経営に参画するための共益権(単独株主権、少数株主権)と配当等の収益を獲得する自益権が挙げられる。 公的なコントロール・メカニズムによる内部化の度合い、すなわちコントロール力の強弱は、拠点の形態により異なる。駐在員事務所および支店の場合、法的には本社組織の一部であり、本社によって完全に内部化されている。法人の場合、本社はその出資比率が高いほど株主としての法的権利をより多く確保し、行使でき、内部化の度合いも高くなる。Gatignon & Anderson(1988)は、多国籍企業による海外事業法人の形態を出資比率に応じて四つに分類し、出資比率が高くなるほどコントロールが強くなるとした(図2)。 しかしながら、企業は、常にコントロールの強い形態を選択するわけではない(Hill & 本社・親会社市場取引組織内取引(内部化)海外拠点・子会社コントロール・メカニズム(内部化手段)社会的要件互恵の規準正当な権威共有された価値観、信条市場*○官僚制度○○クラン○○○本社・親会社による海外拠点・子会社の内部化活動経営者による規則策定・強制公的なコントロール・メカニズム組織的なコントロール・メカニズム経営者による「社会化」*組織内での市場メカニズム的なコントロールのこと出資比率を高める出資比率を低める(出所)山内利夫・立本博文(2018)

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