多国籍企業研究13号
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28日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文1995; 浅川,2003)。そのため、企業は組織内に資源を確保し、組織内取引を優先しようとする。この考え方はWilliamson (1981)をはじめ多国籍企業論に援用され、内部化(internalization)として議論されてきた(Rugman, 1986)。Rugmanは、企業が海外事業において合弁やライセンシングよりも完全所有を志向することも内部化理論によって説明できるとする。Kogut & Singh (1988)は、本社と海外拠点の所在国の文化的距離が大きいとき、事業の不確実性とそれに伴う取引コストが高まるため、企業は取引コストの低減のために海外拠点の完全子会社化を志向するとする。しかしながら、内部資源を形成し、維持するためには様々なコストがかかる。Buckley (2009)は、内部化の短所として、資源保有コスト、組織内コミュニケーション・コスト、海外拠点の異質性による社内政治上の問題、多拠点・多通貨操業に伴う管理コストを挙げる。内部化のコストがその利益を上回るとき、企業は他社との合弁やライセンシング、OEM、提携等の「外部化」を図ることがある(小島,1992)。これらの行動は相手が自社の境界(boundary)の外側にいる点において「外部化」であるが、契約を通じて取引相手を自己利益のために拘束する限りにおいて「内部化的(quasi-internalization)」である。例えば、業務提携契約書に排他的条項がある場合、当該提携は内部取引の要素ももつ(長谷川,1998)。小島(1992)は、企業は、内部経済利益と外部経済利益の合計が最大になるように組織を構築し、運営することが重要であり、内部化と外部化の最適な組み合わせを達成することが望ましいとする。上述の通り、内部化と外部化の間にはグラデーションがある。近年、多国籍企業における意思決定メカニズム(Buckley & Casson, 2019)や、本社と子会社の機能役割(Da Silva Lopes, Casson & Jones, 2019)、「内部化的」取引における立地や市場の不完全性の度合い、企業特殊的優位等の個別要因(Narula, Asmussen, Chi & Kundu, 2019)等のミクロ的考察から、内部化理論を画一的に適用することの限界が示されている。(2)海外拠点をコントロールするメカニズムと業績海外拠点の内部化を行う方法として、本社と海外拠点の間にコントロール・メカニズムを構築することが考えられる。コントロール・メカニズムは、市場原理によるものと、制度・手続きによるもの、文化・社会化プロセスによるものがある(Child, 1972: 1973; Edström, & Galbraith, 1977; Ouchi, 1979, Baliga & Jaegar, 1984; 山内・立本,2018)。このうち、山内・立本(2018)は、コントロール主体に法的権利を与える「出資」に注目し、出資によるコントロール・メカニズムを「公的なコントロール・メカニズム」、その他のコントロール・メカニズムを、Ouchi (1979; 1980)を援用し、「組織的なコントロール・メカニズム」として分類した(図表1)。多国籍企業は海外事業運営においてコントロール・メカニズムを複合的に利用する(Doz & Prahalad, 1981: 1984; 浅川,2003)。

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