27日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文1.はじめに企業は、成長や収益をもたらす事業機会を求めて地理的に拡大する(Zaheer & Hernandez, 2011)。日系企業も海外投資を増大させているが、その収益性は他の先進国企業と比較して低い(塩田・笠原・中道,2016)。しかしながら、海外売上高を持続的に成長させ、かつ高い収益性を維持している企業もある(山内・立本,2018)。業績の高低差は、内部資源の質・量の差と外部環境への適応行動の妥当性の差に由来する(Porter, 1979; Barney, 1986: 2003; Fahey & Narayanan, 1989; Teece, Pisano & Shuen, 1997)。海外拠点は本国とは異なる文化や制度、経済環境の下にあり、本国拠点よりも複雑で不確実かつ曖昧な状況で活動するため(Teece, 2009)、事業運営のコストやリスクが高い(Ghemawat, 2001)。従って、内部資源と外部環境の観点から適切な組織構造をとり、行動できるか否かが海外事業を営む企業(以下、「多国籍企業」)の業績を左右する(Ghoshal & Nohria, 1989: 1993; Nohria & Ghoshal, 1997)。内部資源と外部環境の変化により本国本社と海外拠点の役割や関係性も変化する。本国本社が、海外拠点に権限を移譲して自律性を高めたものの、外部環境の変化や業績悪化を理由に海外拠点に介入することもある(Birkinshaw & Hood, 1998; Young & Tavares, 2004)。企業全体での適応行動は、本国拠点と海外拠点の間のコントロールの上に成り立っている。コントロールとは、組織が目的遂行に向けて利用するメカニズムであり(Ouchi, 1979)、その構造的基礎は当事者の行動を規定する「契約」と行動に対する「評価と報酬」である(Fama & Jensen, 1983; Eisenhardt, 1985; Baysinger & Hoskisson, 1990)。複雑で不確実かつ曖昧な状況で活動する多国籍企業にとって、コントロールは組織の一貫性を保つための統合メカニズムであり、不可欠である(浅川,2003)。コントロールには、本社の海外拠点への出資等による「公的なコントロール」と、本社と海外拠点とで社会要件を共有することによる「組織的なコントロール」の2種類が存在し、互いに影響するとされている。このうち、公的なコントロールは事業実施地の法規制に依拠するため強力な効果をもち、組織的背景の異なる多数の拠点を統合する多国籍企業にとって、便利で有用な組織統合のツールとなっている。多国籍企業にとって、公的なコントロールと業績の関係を明らかにすることは重要な意味がある。本研究では、コントロール・メカニズム、特に、法的な権利に基づく強力なグループ支配を可能にする公的なコントロール・メカニズムに焦点を当て、多国籍企業における公的なコントロールの強さと業績との関係について考察する。2.海外拠点のコントロールと業績に関連する先行研究(1)取引コスト削減手段としての内部化事業環境の不確実性が高く、資源取引にかかる情報の非対称性が大きいとき、資源を組織外で売買するよりも組織内で保有する方が企業にとって取引コスト優位性は高くなる(Dunning, 1988,
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