多国籍企業研究13号
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8日本の大学で学ぶ外国人留学生の「就職問題」に関する研究      ― 大学のキャリアセンターへのアンケート調査に基づいて ― 古沢 昌之期待する将来の役割は「一般の日本人社員と同様」(48.9%)が、「海外との取引を担う専門人材」(19.3%)、「高度な技能・技術を活かす専門人材」(15.5%)、「海外の現地法人の経営幹部」(9.8%)などを押さえてトップとなっている。そして、上述の如き企業側のニーズ・意識は、留学生を日本人と「同じ基準で選考」するという採用活動となって具現化される。労働政策研究・研修機構(2008)によると、留学生を「別枠」で採用している企業は17.3%にすぎず、「日本人と区別なし」が77.6%に達する。他方、横須賀(2007)は前掲の調査の中で、「就業年数」に関する意識のギャップを明らかにしている。企業と留学生の各々に「希望する就業年数」を尋ねたところ、企業は「できるだけ長く」との回答が46.1%を占めて最多であったのに対し、留学生についてはその比率は5.0%にすぎず、「1~3年」(27.9%)と「3~5年」(27.4%)が上位2項目となるなど彼(彼女)らの日本でのキャリアビジョンが短期志向である様子が示されたという。かような状況下、日本語能力や日本文化への理解といった点でハンデを抱えるとともに、長期の就業を期待する日本企業のニーズとの齟齬が見られる留学生が、就職活動において苦戦を強いられ、それが先に論じた低い就職率と関連しているであろうことは想像に難くない(鄭,2015)。3.大学のキャリアセンターに対するアンケート調査報告本節では、本論文におけるこれまでの議論を踏まえ、我々が実施したアンケート調査の結果を報告する。(1)調査概要とリサーチクエスチョン本アンケート調査(調査名:外国人留学生の就職に関するアンケート調査)は、2019年10月~2020年2月にかけて、筆者が上席研究員を務める一般財団法人アジア太平洋研究所(Asia Pacific Institute of Research: APIR)の研究プロジェクト「関西の大学・大学院で学ぶ留学生の就職に関する研究」(リサーチリーダー:近畿大学経営学部教授・古沢昌之)の一環として、日本に所在する全ての大学及び大学院大学(790校:以下「大学」と呼称、短期大学は除く)を対象に実施したものである14。アンケート票は郵送で各大学のキャリアセンター(就職活動支援部署)宛に送付し、ご回答の上、同封の返信用封筒で返送していただくよう依頼した。また、個別の回答内容については、大学名・回答者名を公表しない旨、アンケート票に明記した。その結果、167の大学から有効回答を得た(回収率=21.1%)。なお、本調査における「外国人留学生」は、当該大学の学部または大学院で学ぶ正規学生に限定した(交換留学生や短期留学生、研14 本アンケートにご協力を賜った各大学の皆様方に厚く御礼を申し上げる次第である。また、我々の研究プロジェクトを温かく見守っていただいているアジア太平洋研究所の宮原秀夫所長、岩野宏代表理事、研究推進部の皆様方、さらにはプロジェクトメンバー(リサーチャー)である松川佳洋先生(広島経済大学)とカオ・ティ・キャン・グェット先生(関西学院大学)に謝意を表したい。

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