多国籍企業研究第11号
43/62

39ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰で効果の強さ(強度)が目立った感情的価値に比べて(後述)、象徴的価値には両群にまたがる安定した効果の広さ(範囲)が認められ、他の次元より普遍性の高い価値次元であることがわかった。自主的な消費が特徴とされる倹約消費者(Goldsmimith et al., 2014; Lastovicka et al., 1999)といえども、LB消費では社会・対人的な次元から満足感を覚え、再購買意図を形成する側面があるといえる。その背景の1つには、相互依存的な自己概念を持ち、集団志向性を重んじる日本人の文化的特性(Le Monkhouse et al., 2012)が考えられる。日本人消費者は他者に劣ることなく準拠集団との同質感を保つため、自己表現の象徴的なツールとしてLBを消費する側面が強いといえよう。一方、両群間では次のような相違点がみられた。第1に、実用的価値の働きが高群で著しかった。低群に比べて満足への影響が強かっただけでなく、高群内でも満足を強く規定する要因であった。これは価値意識が高く、モノを長らく大事に使おうとする倹約消費者の特徴(Goldsmith et al., 2014; Lastovicka et al., 1999)と整合する結果といえる。第2に、感情的価値の働きは低群で著しかった。高群では満足と非有意の関係にあったが、低群では他の価値より満足を強く規定した。要するに、高群では実用的価値が、低群では感情的価値が、満足との関係で相対的に強い働きをすることが明らかになった。この結果は倹約志向の水準によってLB価値の効果が調節されることを意味する。つまり、倹約は、実用的価値と感情的価値の効果を調整する役割を果たすことが判明した。理論的インプリケーション:本研究はLBの知覚価値と倹約志向の相互作用について、学術的かつ実証的にアプローチした研究である。とりわけ、倹約の視点からLB消費に関する連鎖的な因果関係を検証し、ラグジュアリー消費研究と倹約研究を橋渡ししている。それにより、倹約水準によるLB消費の動態性を捉えることが可能になった。換言すれば、倹約概念を組み込んだからこそ、本研究のモデルはこれまで見過ごされてきたLB消費と倹約の相互作用を説明できるようにしたのである。例えば、多次元LB価値の効果が一様ではなく、倹約志向が高い場合には実用的価値が、低い場合には感情的価値がそれぞれ満足と強い因果関係を持つことがわかった。これは倹約が認知的な価値次元と情緒的な価値次元の効果を調整する要因であることを意味する。さらに、象徴的価値の働きから、必ずしも富裕層ではなく、また倹約志向の高低にも関係なく、消費者は社会的なシンボル性やステータスを補うためにLBを採用することがわかった。これらの発見は、節約しつつも贅沢品を消費する事象について、学術的な検証の欠落を埋め、関連研究領域の発展に寄与するものである。実務的インプリケーション:LB消費と倹約が共存するラグジュアリー民主化では、市場拡大をもくろんで、LBの名声を保ちつつ一般大衆の手に届くような贅沢品を提供しようとする企業側の戦略がみられる(Catry, 2003; Fiske & Silverstein, 2002; Kastanakis & Balabanis, 2012)。それがラグジュアリー民主化をさらに助長する原因ともいわれる(Catry, 2003; Fiske & Silverstein, 2002; Kastanakis & Balabanis, 2012)。本稿で着目した高級ファッション・ブランドの分野も例外ではない。例えば、LVMHやリシュモンのような大企業が、様々な所得水準、ライフスタイル、購買動機を持つ消費者を上手に取り込みながら、ラグジュアリー民主化を促進させてきた(高田・田中、2016)。また、近年には、ソーシャル・メディアを活用して、一般消費者層の開拓とロイヤルティ向上に成果を上

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る