多国籍企業研究第11号
42/62

38ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰的価値と象徴的価値の間(1.10)では有意ではなかった。満足と意図が正の関係を持つと仮定したH4は、予想通りb = .77, t = 15.39, p<.001の結果が得られて支持された。H5、H6、H7では、倹約水準によって各知覚価値の働きがどのように調整されるかを予想した。実用的価値と満足の関係は、倹約高群(b = .48, t = 3.92, p<.001)と倹約低群(b = .17, t = 2.37, p<.05)でともに有意であった。ただし、パラメータ間の差に対する検定統計量が2.37で、両群間で有意差が認められた。したがって、H5(LBの実用的価値と満足の関係は、低倹約志向より高倹約志向で強い)が支持された。次に、感情的価値と満足の関係は、高群で非有意(b = .22, t = 1.93, n.s.)で、低群で有意(b = .59, t = 7.68, p<.001)であった。パラメータ間でも検定統計量2.77の有意差が認められ、H6(LBの感情的価値と満足の関係は、高倹約志向より低倹約志向で強い)が支持された。一方、象徴的価値と満足の関係は、高群(b = .24, t = 3.29, p<.01)と低群(b = .16, t = 2.76, p<.01)でともに有意であった。パラメータ間の有意差は認められず(0.01)、H7(LBの象徴的価値と満足の関係は、高倹約志向より低倹約志向で強い)は棄却された。5.ま と め本稿では、倹約のかたわらLBを消費する事象が多くみられるにもかかわらず、実証的な検討が少ないことに問題意識を持った。そこで、日常生活でラグジュアリーを消費する日本人のLB品所有者に分析の焦点を当て、倹約高低の視点からLB知覚価値・満足・意図の関係を比較分析した。以下では、冒頭で提示したRQに沿って分析結果を考察し、理論的および実務的なインプリケーションを導出する。LB知覚価値→満足→意図の連鎖的因果関係(RQ1):全体分析で、実用的価値、感情的価値、象徴的価値ともに満足と有意な正の関係を示した。したがって、認知、情緒、社会・対人に関わる価値次元が複合的にLB品所有者の満足を規定することが判明した。ただし、その因果関係の間には一部有意差がみられ、感情的価値が象徴的価値より強い効果を示した。内面的な喜びや高揚感が、対人的な顕示性や表現性よりも高い満足感をもたらしたのである。次に、満足は意図と正の関係を持った。LBへの満足度が高ければ高いほど、再び高級ブランド品を買いたいと思う気持ちも高まることがわかった。これらの結果から、多次元のLB知覚価値が満足を経由して再購買意図に影響する一連の因果関係が検証された。倹約志向の高低による類似点と相違点(RQ2):ただし、上記の因果関係は倹約水準によって一様ではなく、高群と低群の間では類似する部分と相違する部分がみられた。類似点は、第1に、多次元の知覚価値が満足を経て意図につながる連鎖的な関係性である。とりわけ、実用的価値と象徴的価値が満足を経由して意図に影響する因果関係が共通してみられた。したがって、倹約水準にかかわらずLB品所有者の反応は複数の知覚価値と関わって規定されることがわかった。第2に、象徴的価値が満足に与える影響には群間有意差がみられなかった。1つの群

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る