多国籍企業研究第11号
37/62
33ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用 ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李 炅泰次に、社会・対人的な価値次元は、低倹約志向で相対的に重視されると考えられる。プレステージやステータスの追求、あるいはステータス・シンボリズムはLB消費の中心的な動機として論じられる(Goldsmimith et al., 2012; Eastman et al., 1999; Kastanakis & Balabanis, 2012, 2014)。それは顕示的なLBが機能的な効用を越えてプレステージやステータスのシンボルとして働き、所有者に対人的な自己表現の便益をもたらすことを意味する(O’Cass & Frost, 2002; Han et al., 2010; Kastanakis & Balabanis, 2014)。贅沢品であるLBを消費する背景には、多かれ少なかれこの社会的シンボルとしての価値を享受しようとする動機が働いていると考えられる。この価値を重んじる人ほど自己を顕示的に拡張・表現する手段としてLBを利用するため、その消費から得られる満足の度合いは、周りの反応とそれに対する本人の知覚によって規定される可能性が高い。ただし、先述のように高倹約志向に対しては、他者の意見や行動(対人的影響)に比較的左右され難い消費の自主性が指摘されている(Goldsmith et al., 2014; Lastovicka et al., 1999)。先行研究の通り、高倹約志向が低倹約志向に比べて対人的影響への感度が低いのであれば、社会的次元である象徴的価値が満足に及ぼす影響も、低倹約志向で相対的に強くあらわれると思われる。無論、品質・快楽・象徴性ともにLBの主たる価値であるが(Le Monkhouse et al., 2012; Vigneron & Johnson, 1999)、倹約志向の高低によって上述したような差異が予想される。したがって、高倹約志向では実用的価値が、低倹約志向では感情的価値と象徴的価値が、それぞれ満足と比較的強い関係を持つと仮定する。H5:LBの実用的価値と満足の関係は、低倹約志向より高倹約志向で強い。H6:LBの感情的価値と満足の関係は、高倹約志向より低倹約志向で強い。H7:LBの象徴的価値と満足の関係は、高倹約志向より低倹約志向で強い。3.調査の設計と実施測定具:LBの知覚価値は、Le Monkhouse et al.(2012)の尺度に基づいて測定した。同稿ではVigneron & Johnson(1999, 2004)による価値次元の分類を受け継ぎながらも、測定具は日本を含むアジアの文脈で修正している。倹約は、Lastovicka et al.(1999)の尺度で測定した。この尺度は次元性に関する見解の相違こそあるものの、多くの先行研究で採用された倹約の代表尺度である(Goldsmith et al., 2014; 玉置、2014; Todd & Lawson, 2003などを参照)。満足については、Westbrook & Richard(1981)とそれを引用したMattila & Wirtz(2001)から4項目を採用し、意図については、Dodds et al.(1991)を参考に3項目を設定した。各項目は「1.まったくそう思わない」~「6.とてもそう思う」からなる6段階のリッカート・スケールで測定された。翻訳:質問文の翻訳は、英語の研究・教育の専門家(大学教授)を含む2名のバイリンガルによって並行翻訳法で行われた(Usunier & Lee, 2009)。2名が別々に翻訳した結果を比較照合して、語彙・成句・統語・語感の整合性と等価性を検討した。その過程で直訳では不自然な項目は意訳された。
元のページ
../index.html#37