多国籍企業研究第11号
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32ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰購買の傾向は低い(Study 3, n=90)。そして、マテリアリズム傾向3が低目で、他者の意見や行動に容易く左右されない自主性がある(Study 4, n=101)。ただし、倹約家だからといって必ずしも環境意識が高いわけではなく、クーポンの利用に傾倒するわけでもないという。また、Bearden et al.(2006:米国人339名と日本人253名)では、Lastovickaらの概念規定と整合する形で、長期志向性が倹約と正の関係を持ったと報告している。Goldsmith et al.(2014:米国大学生256名)では、Lastovicka et al.(1999)と一部類似な視点から、倹約消費者はマテリアリズム、ステータス消費、ブランド・エンゲージメントが比較的低い半面、購買意思決定では自主的な傾向があると述べる。同稿を拡張したGoldsmith & Flynn(2015:米国大学生464名)では、自己統制力の高い消費者ほど節約意識も高いことを検証している。さらに、Bove et al.(2009:オーストラリア人215名)では、市場と買い物について熟知している人、ショッピングを敬遠する人、年齢の高い人ほど、倹約の傾向にあると論じる。要するに、倹約消費者は、衝動買いや他者を意識した消費をするより、長期目標を念頭に置いて、どこで何をどう買うべきか考えながら行動することが多いといえる。ただし、倹約はケチと同じではなく、すべての買い物で金銭的支出を惜しむわけではない。トレーディング・アップのような言葉が表すように、普段は倹約を心がけながら、自己目標との強い関連性を知覚した場合には思い切って購買行動を起こすことが十分あり得る。倹約とLB消費が共存できる理由もそこにある。問題は、倹約しつつLBを消費する人の価値意識がそうでないLB消費者に比べてユニークなものかどうかである。その解明のため、本稿ではLB品所有者を倹約志向の高低に分類し、LB知覚価値・満足・意図の関係性にどのような相違点と類似点があるのかを検討する。倹約水準による調整:続いて、仮説1~3に示したLB知覚価値と満足の関係が、倹約水準によっていかに調整されるかについて仮説を導出する。ここでは節約意識の高い消費者を「高倹約志向」、低い消費者を「低倹約志向」とそれぞれ呼称する。まず、高倹約志向は認知的な価値次元を、低倹約志向は情緒的な価値次元を相対的に重視すると考えられる。高倹約志向には長期志向性があり(Bearden et al., 2006; Lastovicka et al., 1999)、価格と価値に対する意識が高く、節制された買物行動を示す(Lastovicka et al., 1999)。このように節約意識が高いため、支払いに対して最大の価値を手に入れようとする傾向が強く、長期間有用に使える高品質の製品を求めるはずである。それが高価な高級ブランド品であればなおさらであり、高品質や熟練技のような実用的価値が一層強く満足を規定すると思われる。それに比べて、低倹約志向は節約意識が比較的低いため、支払額に対する功利的な価値より、LBを使うことで得られる高揚感、充足感、喜びなどの快楽的経験(Christodoulides et al., 2008; Le Monkhouse et al., 2012; Tynan et al., 2010; Vigneron & Johnson, 1999)を相対的に重視すると考えられる。3 マテリアリズムは、モノの取得と所有を通じて成功と幸福を追求する消費者の性向ないしは価値観のことである(Richins, 2004)。詳細は、Goldsmith et al.(2012)、李(2011, 2012, 2017)、Richins(2004)などを参照されたい。

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